研究課題/領域番号 |
24592515
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
坂田 正博 大阪大学, 医学部附属病院, 准教授 (10260639)
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研究分担者 |
澤田 健二郎 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (00452392)
馬淵 誠士 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (00452441)
磯部 晶 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (60397619)
橋本 香映 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (90612078)
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キーワード | 卵巣癌 / 抗血管新生治療 / 分子標的治療 / VEGF / NF-κBシグナル |
研究概要 |
我々は低酸素状態で分泌される血管新生因子PlGF(Placental Growth Factor)やVEGF(Vascular Endothelial Growth Factor)に着目し、それらが卵巣癌の播種病変の形成に与える影響や癌患者の予後に与える影響を検討している。本年度、VEGF の発現を制御する因子として上流のNF-κB(nuclear factor-kappa B)シグナルに着目して検討を行った。不活性型NF-κBは細胞質に存在しIκB(Inhibitor κB)と結合することによりその活性を抑制されているが、刺激(TNF-α等)によりIκBのセリン残基をIκBキナーゼ(IKK)が活性化されるとIκBはタンパク質分解酵素複合体であるプロテアソームにより分解を受ける。これによりIκBにマスクされていたNF-κB(p50-RelA)の核内移行シグナルが露出し核に移行できるようになり、シグナルが活性化する。本研究ではまず94例の卵巣癌組織検体より作成した組織アレイをリン酸化IKK(p-IKK)抗体及びVEGFで染色しNF-κBシグナルが卵巣癌の予後に与える影響とIKKのリン酸化とVEGFの発現との関連性を検討した。患者の予後はKaplan-Meier法を用いて解析し卵巣癌組織におけるIKKのリン酸化が独立した予後因子であることを見出した。更にIKKのリン酸化とVEGF の発現との正の相関関係があることを証明した。即ちNF-κBシグナルの活性化がVEGF の発現を制御することにより卵巣癌患者の予後を規定している可能性を示唆することができた。そこで特異的なIKKβの阻害剤であるIMD-0354 を分子医薬研究所(株)より提供を受け卵巣癌細胞に与える影響を検討した。IMD-0354は卵巣癌細胞におけるNF-κBシグナルの活性化を抑制することによりVEGFの産生を濃度依存的に抑制した。IMD-0354はまた低濃度で卵巣癌の浸潤能、接着能を有意に抑制した。即ちIMD-0354 によるNF-κBシグナル抑制が癌細胞よりのVEGF作成を抑制し新規の血管新生抑制治療になりうる可能性を報告した。今後はこの薬剤を卵巣癌腹膜播種モデルマウスに投与して、臨床応用の可能性を検討したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
もともとはPlGF の機能抑制による血管新生阻害をみる実験計画であったが、特異的なPlGF 阻害剤が存在せず、機能抑制の検討を行うことが困難であったため、VEGF に焦点をあて、さらにその上流に存在するNF-κBシグナルに焦点を当てた研究を行った。上述した通り、一定の成果は得られ、計画はおおむね進行していると考えている。今後は動物実験において、NF-κBシグナル抑制による抗血管新生治療の可能性を検討し、新規分子標的治療の可能性を提示したい。
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今後の研究の推進方策 |
我々はヒト卵巣癌細胞株をヌードマウスに腹腔内投与する卵巣癌腹膜播種モデルマウスの実験系を既に確立している。例えば、我々が頻用してきたSKOV3ip1移植マウスは通常、移植後35日前後で2ml以上の血性腹水を伴った卵巣癌末期症状を呈する。そこで本年度はこの卵巣癌腹膜播種モデルマウスを用いて、In VivoにおけるNF-κBシグナルの機能抑制により卵巣癌の播種進展が抑制できるか血管新生が抑制できるか、その効果を検証する予定にしている。
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次年度の研究費の使用計画 |
大量購入により実験に使用する消耗品の価格を抑制することが出来たため少額ながら残額を出すことが出来た。 ルシフェラーゼアッセイキット、培地、FBS、抗生剤などの消耗品も必要であり、それらの購入にあてる。
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