研究課題
癌の浸潤や転移には、細胞の形態、接着、運動、増殖等を担う細胞骨格制御分子群が深く関与している。アクチン結合蛋白質カルポニンh1(CNh1)は細胞骨格アクチンを安定化させる働きをもつ。以前、我々はアデノウィルスベクターを用いてCNh1を卵巣癌細胞に導入し、癌細胞の増殖能と浸潤能が抑制されることを報告した。さらに卵巣癌腹膜播種モデルマウスに同ウィルスを腹腔内投与し、播種の抑制を介した延命効果を確認した。臨床に応用する場合、Cell-penetrating peptide(CPP)を用いた導入が有用であるが、CNh1の全長を組み込むことは困難である。そこでCNh1のタンパク質構造のうちアクチンの安定化に有効な最小部位のアミノ酸配列を同定することとした。平成25年度行った実験内容:GFP標識したCNh1全長やCNh1の構造の一部を組み込んだヒト卵巣がん細胞株で外因性CNh1の局在を確認し、アクチン重合に与える影響を評価する。組み込まれた細胞の運動能、浸潤能、増殖能を評価し、CNh1のどの構造が効率的に悪性形質を抑制するか検討する。平成25年度行った実験結果:細胞質内のアクチン重合比率はCNh1全長で71.3%、カルポニンリピート構造だけ(以下、CNR)でも 41%とGFPのコントロール(6%)に比べて高率を示し、細胞形態にも変化を認めた。アクチンの重合部位に一致してGFPが局在していた。CNRは卵巣癌細胞の悪性形質である運動能と浸潤能を抑制した。増殖能に関してはあまり変化を与えなかった。得られた結果の意義:卵巣癌細胞においてCNRはCNh1全長と同様に細胞運動能と細胞浸潤能を抑制した。現時点で増殖抑制効果は確認されていないが、CNh1全長に比べ短いCNRは、CPPに導入しやすいため、卵巣がん腹膜播種を治療する基礎実験に有用と考えられた。
2: おおむね順調に進展している
細胞骨格アクチンを有効に安定化させるCNh1遺伝子の一部として、CNRが有用と思われる実験結果を得られたことは、前臨床試験としてのCPPを用いた遺伝子治療モデルの確立に向けて期待できる成果であったため。ただしその部分が、細胞増殖能を抑制しなかったことは、臨床上の有用性に向けて懸念を残した。以上、ヒト卵巣がん細胞の増殖を抑制できなかった結果、再検討を要するが、平成25年度に予定した研究到達目標の7割ほどが順調に達成できたと考える。
CNh1遺伝子の小部分(カルポニンリピート構造:CNR)が、ヒト卵巣がん細胞の増殖能に対しても有効性を確認できれば、担癌させた腹膜播種モデルマウスで動物実験を行い、その有効性を確認したい。それが良好な結果であれば、遺伝子治療モデルへの道が開ける。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件)
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