研究実績の概要 |
卵巣表層上皮(ovarian surface epithelium: OSE)は、卵巣全体の1%にも満たない卵巣を被覆する一層の細胞であるが、種々の物質を生理的に産生している。この中でもエストロゲンは、多様な生理作用によって女性の性機能発現に中心的な役割を果たし、各種病態の発現や進展にも関わっている。今回われわれは、ヒト正常OSEにおけるエストロゲン代謝機構の解析を通して、OSEに由来すると考えられている上皮性卵巣癌の細胞内局所のエストロゲン動態を解明し、卵巣における発癌機構の解明を目指し解析をすすめている。17β-HSDには300以上の一塩基多型 (Single Nucleotide Polymorphism; SNP)が報告されており、SNPsは17β-HSDの酵素活性に影響を及ぼす可能性が考えられる。すなわち、活性の異なる17β-HSDsのSNPs の発掘・同定を行うことで、局所的なエストロゲン活性の調節機構の個人差が解明され、テーラーメイド医療が可能となることで、将来的な臨床医療・予防医学の分野に大きな貢献をもたらすことが期待できる。ヒトOSEにおける17β-HSD type 1, type 2, type 4, type 8の発現を調節する因子を検討するために、月経周期を有する健康成人女性のゲノムDNAから各17β-HSDのプロモーター領域を抽出し、ダイレクトシークエンスにて遺伝子配列に誤りがないことを確認する。さらに、ルシフェラーゼ遺伝子をレポーター遺伝子として下流にもつベクターpGL3にサブクローニングする予定である。その後、このベクターをヒト不死化OSE細胞株にトランスフェクションし、エストロゲン、抗エストロゲンを投与することによって17β-HSD type 1, type 2, type 4, type 8の発現が変化するかどうかの検討を予定している。
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