研究課題/領域番号 |
24592524
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
佐藤 美紀子 横浜市立大学, 附属病院, 講師 (70326049)
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研究分担者 |
宮城 洋平 地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立がんセンター(, がん分子病態研究部門, 部門長 (00254194)
平原 史樹 横浜市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30201734)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 子宮筋腫 / Erythropoietin / Angiopoietin |
研究概要 |
我々は子宮平滑筋腫の約2/3の症例で腫瘍細胞がerythropoietin (EPO) mRNAを高発現しており,このような症例では子宮筋腫径も大きい傾向があることから, EPOは筋腫が増大する機序に関与していると考えた.本研究はEPOの子宮筋腫に対する作用を解明するとともにEPO高発現筋腫に特徴的な臨床所見を見いだす事により,各々の症例に適した子宮筋腫治療計画立案ツールを確立することを目的としている. 1) 子宮筋腫組織におけるEPO mRNA発現と血管造成因子の検討:文書による同意を得た上で70症例以上の子宮筋腫と正常子宮筋組織を収集し解析を開始した. EPO mRNA 高発現の筋腫は腫瘍内血管が成熟している傾向にあった事から血管成熟のkey regulatorであるangiopoietin-1 (ANG1)のmRNA発現をReal-time RT-PCR法で検討した.血管成熟が高度な症例ではANG1 mRNAが高発現している傾向があり(p=0.028 by Student’s t-test), さらにANG1 mRNAの発現量はEPO mRNA発現量と正の相関関係にあった(Speaman’s correlation coefficient by rank=0.701).血管新生因子VEGFとEPOの発現には関連が見られなかった.すなわち本研究により,EPOは子宮筋腫内の血管新生よりはむしろANG1を介して血管成熟を促進する事で子宮筋腫の増大に関与している可能性があることが明らかとなった. 2) 子宮筋腫組織と臨床情報の入手と臨床像/画像解析:本院で診断・治療を受けた子宮筋腫症例約1200例を抽出し腫瘍の病理学的所見,画像所見,臨床経過,妊娠時の状況などに関するデータベース作成を開始した.その一部を後方視的に解析し学会にて研究報告している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
24年度でEPOと子宮筋腫に関する基本的な生物学的現象は詳細に観察することができた.本研究は子宮平滑筋細胞そのものの増殖ではなく,筋腫核を栄養する腫瘍内血管に焦点を当てている.Real-time RT-PCRによって腫瘍内におけるEPOの発現と血管成熟のkey regulator であるANG1の発現に正の相関があることを見出したのは,EPOがANG1を介して腫瘍内血管の成熟を促進し,腫瘍内の血流を保持する事によって筋腫を増大させている仮説モデルが明確になった点で大きな進歩であった.また,血管新生のkey regulatorであるVEGFとEPOの発現には相関がなくEPOは腫瘍内血管新生には関与していないと考えられた.一方で子宮体部悪性腫瘍ではEPO, ANG1の発現ともに低発現,代わりにVEGFの高発現が認められたことから,子宮筋腫は悪性腫瘍とは異なる固有の機序で腫瘍体積の保持を行っている可能性が示唆され,本研究が筋腫の病態解明に迫るものであると考えられた.さらにEPO高発現の筋腫でもEPOに重要な転写因子であるHIF1-α蛋白の発現はEPO低発現の筋腫と同程度であり,筋腫におけるEPOの発現はHIFを介さない機序で調節されている可能性がある. 25年度以降は筋腫におけるEPO発現の機序解明を最優先課題とするべく方向づけられたと考えている.また,24年度中に今後解析を行うのに十分な子宮筋腫組織と患者臨床データの収集を行い,25年度以降にEPO発現による筋腫の臨床的特徴の解析を行ってゆく準備に目処が立った.子宮筋腫の臨床像に関する後方視的研究は,筋腫が頻度の高い疾患で患者の母集団も大きいことからデータベース作成には時間と労力が必要であるが,現在までに過去5年程度の症例解析が終了し,24年度はそれを元に5件の学会発表を行った.
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今後の研究の推進方策 |
1) 基礎研究分野: 24年度の研究によって,筋腫におけるEPOの発現はHIF1-αに制御されていない可能性が示唆されたが,初代培養した子宮平滑筋腫細胞,テロメラーゼ強制発現で不死化させたヒト平滑筋腫細胞(UtLM-ht)などを用いてin vitroで確認を行う.同時にHIFを介さないEPO発現調節機序解明のためEPO遺伝子のプロモーター領域に存在するGATA因子の発現/機能解析やエストロゲン、プロゲステロンなどの性ステロイドがEPO発現に及ぼす作用について,培養細胞を用いた実験を施行し子宮筋腫組織におけるEPO発現の機序解明を目指す. 2) 臨床研究分野:「筋腫が健康の障害となり治療を要した群」と「筋腫を有していたが経過観察可能なまま閉経へ至った群」に分けて後方視的に検討し,将来的に増大する可能性のある筋腫を選別する診断ツール開発への基盤とする.同時に子宮筋腫組織のEPO発現様式とEPO高発現症例における臨床的特徴を詳細に解析することによって, EPO発現が筋腫の予後予測因子たりうるかを検討する.
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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