研究課題/領域番号 |
24592524
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
佐藤 美紀子 横浜市立大学, 附属病院, 講師 (70326049)
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研究分担者 |
宮城 洋平 地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立がんセンター(臨床研究所), がん分子病態研究部門, 部門長 (00254194)
平原 史樹 横浜市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30201734)
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キーワード | 子宮筋腫 / エリスロポエチン / 血管成熟 / 多血症 |
研究概要 |
巨大な子宮筋腫では稀に腫瘍由来のerythropoietin (EPO)分泌のため多血症を呈するMyomatous erythrocytosis syndrome(MES)を合併することがある.本研究はMESの病態からEPOが筋腫の巨大化に関与しているのではないかとの着想を得て,EPOの子宮筋腫における発現とその作用を検証することを目的としている. 我々は研究期間内に114例の子宮筋腫手術検体を収集・解析した.Real-time RT-PCR法で,全症例の60%程度の筋腫組織が正常子宮筋層よりEPO mRNAを多く発現していた.筋腫組織から抽出した蛋白のELISA法で組織のEPO蛋白発現も確認した.EPO 発現量は子宮筋腫径と正の相関関係があり,EPOは筋腫の増大に関与していると考えられた. 子宮筋腫に対するEPOの作用について,筋腫手術検体の免疫組織化学法を用いて細胞増殖,アポトーシス調節および血管新生の検討を行なった.EPO高発現例と低発現例間で増殖・アポトーシスに差は認められなかった.一方で,EPO高発現例では低発現例に比較して血管成熟が亢進する傾向があった.血管密度には差が認められなかった事から,EPOは子宮筋腫において血管成熟を亢進することにより腫瘍の増大を促している可能性が示唆された. 子宮筋腫でのEPO発現調節因子の解明もおこなった.EPO発現の重要な調節因子であるHypoxia Inducible Factor (HIF)1-α蛋白の発現をWestern blotting法で検討したが,EPO高発現例と低発現例間で差は認められず,子宮筋腫におけるEPO発現は低酸素・HIF-1系とは別の因子が関与していると考えられた.臨床的解析では閉経前後でEPO発現量に差異があることから,エストロゲンがEPO発現に関与している可能性があり,in vitroで検証中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでに100以上の症例を用いて筋腫組織におけるEPO発現と臨床像解析を完了することができた.子宮筋腫はありふれた疾患であるが,その臨床病理像は多彩であり,これほど多数の症例解析を行えた事は今後の研究進展に有用であると考える.この過程で,筋腫組織におけるEPO蛋白発現確認が非常に困難であり,時間を要した.結果的には組織から抽出した蛋白でELISA法を行なう事により蛋白を証明することができた. また,当初の計画では子宮筋腫におけるEPOの作用解析と発現調節の解明を目的として in vitro実験を行う予定であったが,進行が遅延した.理由は当初使用予定であった不死化ヒト平滑筋腫細胞株が非公開であり,入手が予想外に困難であったため,別途in vitro実験を行なうためのモデルを作成する必要が生じた.そこで不死化ヒト平滑筋腫細胞株の作成および筋腫組織の初代培養実験系の確立に着手したためである.
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今後の研究の推進方策 |
子宮筋腫症例におけるEPO発現様式とその臨床病理像の特徴についてはある程度の検証を完遂し,子宮筋腫がEPOを発現しており筋腫増大・巨大化に関与している事は相当に確実な事実であると結論づけられた,今後はEPOが筋腫の増大に及ぼす影響の詳細を検証するとともに,どのような機序で子宮平滑筋腫細胞がEPOを発現しているかの解析が課題である.元来子宮筋腫は良性腫瘍で細胞回転も遅いことから,EPOの作用や発現機序を評価するためにはin vitro系が必須である.現在分担研究者である神奈川県立がんセンターの宮城洋平がん分子病態研究部門長とともにhTERTを用いた子宮平滑筋腫細胞株の作成を行なっている.同時に筋腫組織の初代培養実験系を立ち上げ,in vitro実験を集中的に行なってゆく予定である.
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