研究課題/領域番号 |
24592543
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
齋藤 武久 福井大学, 医学部, 准教授 (10139769)
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研究分担者 |
成田 憲彦 福井大学, 医学部, 助教 (80345678)
伊藤 哲史 福井大学, 医学部, 助教 (90334812)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 共焦点レーザー顕微鏡 / 茸状乳頭 / 味蕾 / 鼓索神経 |
研究概要 |
1.生体用共焦点レーザー顕微鏡による茸状乳頭内部の観察 共焦点レーザー顕微鏡で観察できる範囲は0.4mm四方に限られるので、不随意運動が避けられない舌の表面の一個の茸状乳頭をその枠内に入れて観察するのは非常に難しい。そこで、味蕾の観察効率を上げるための工夫として、①手術用顕微鏡下に舌表面を観察しながら目標となる茸状乳頭を0.5%メチレンブルーで染色する。②助手が被験者の頭部を持ちながら顕微鏡の対物レンズから出力される赤色レーザー光の位置に色素でマークした茸状乳頭がくるように誘導する。③もう一人の検者が顕微鏡操作を行って茸状乳頭を見つけ出し、観察画面内に乳頭が入るよう顕微鏡を操作しながらフットスイッチで画像を記録した。 2.観察項目:(1) 中耳手術中に鼓索神経が切断された症例において、術後定期的に舌表面を観察し、茸状乳頭味蕾が消失し始めるまでの日数、完全に消失するまでの日数を同定。(2) 鼓索神経が切断された症例において、茸状乳頭内に味蕾が再生するまでの期間を同定。 3.結果:(1) 鼓索神経切断後、数日~20日で味蕾の変性が始まり、2~6週間で味蕾は完全に消失したが、乳頭毎・個人毎の差が大きかった。(2) 鼓索神経切断後に茸状乳頭が消失し、その後再生するまでの期間に関しては観察期間がまだ短く、今後の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最終目標は鼓索神経を切断した症例において、茸状乳頭の味蕾が消失するまでの日数、さらに味蕾が再生するまでの月数を同定することである。今年度、鼓索神経切断後に味蕾が消失するまでの日数を観察できた症例数は5例であったが、味蕾消失までの日数においては各乳頭、個人によって大きな差がみられることが判明した。これは過去の動物実験報告とは異なる結果であった。すなわち、動物実験では種を同じにすれば個体差はそれほど大きくならないが、ヒトでは個体差が大きいことを示唆している。 今年度は、この他に、①過去に鼓索神経を切断され、電気味覚検査域値が完全回復した患者の鼓索神経固有領域の茸状乳頭を共焦点レーザー顕微鏡で観察し、再生味蕾の存在の有無、平均味蕾数を求めた。その結果は、過去に同様の症例の茸状乳頭味蕾をbiopsyして光学顕微鏡レベルで乳頭毎の味蕾数を検討した結果とほぼ同じであった。このことから、味蕾の存在を非侵襲的に観察することが可能であることが判明した。②20歳代の若年層と60代以上の高齢者層において、電気味覚検査域値と茸状乳頭味蕾数に差がないかを検討したが、現時点では茸状乳頭1個当たりの平均味蕾数に大きな差はみられなかった。③慢性中耳炎、真珠腫性中耳炎患者の術前における平均味蕾数を正常者と比較した。まだ症例数が少ないが、真珠腫性中耳炎の中でも緊張部型真珠腫症例は電気味覚検査域値の上昇と味蕾数の減少傾向が認められた。これは鼓索神経が走行する鼓室内における炎症の程度が高度であれば鼓索神経に障害が及んで神経線維の変性や減少が引き起こされると考えられる。その結果として、茸状乳頭味蕾数の減少、ひいては電気味覚域値の低下へ結びつくと考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
第一に、鼓索神経切断症例を増やすことが求められる。神経切断後に味蕾が消失するまでの期間の解明については、茸状乳頭の位置と形状を目安にした同一乳頭の継時的変化を追及することが重要と考えられる。その理由は、正常舌においてさえ味蕾を有する茸状乳頭は50~70%と報告されているので、測定の度に異なる乳頭を観察していたのでは、味蕾が消失する傾向にあったとしても、すべての乳頭で味蕾が消失したかどうか定かとは言えないからである。これまでの検討で、同一の乳頭を継時的に追えた症例があるので、今後は時間をかけて同一乳頭数を増やす予定である。次に、味蕾が消失した後、再生神経線維が茸状乳頭に到達して味蕾が再生するまでの期間を究明する上で大きな問題がある。すなわち、過去の検討において判明していることは、鼓室内で切断された鼓索神経が再生する率は約40%であり、最終的に電気味覚検査域値が正常範囲に回復する症例、すなわち再生神経が舌の茸状乳頭まで到達して味蕾が再生する症例となると、神経切断例全体の20数%に過ぎないことである。したがって、この研究期間中に味蕾の再生時期を特定できる症例は非常に限られると考えられるので、切断症例については定期的な観察を怠らないよう、患者との信頼関係を密にして協力を得る必要がある。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度から繰り越した研究費と、平成25年度分の一部を共焦点レーザー顕微鏡のレンタル費用(4月~3月の1年間)に充てる。その他、共焦点レーザー顕微鏡使用に際して必要となるトモキャップやジェル、画像の保存用メモリーカードの購入が必要である。また、研究成果を学会で発表するために必要な交通費や宿泊費、英文誌に投稿する際の英文校正費、論文投稿費用も必要となる。
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