研究課題/領域番号 |
24592543
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
齋藤 武久 福井大学, 医学部, 准教授 (10139769)
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研究分担者 |
成田 憲彦 福井大学, 医学部附属病院, 講師 (80345678)
伊藤 哲史 福井大学, 医学部, 助教 (90334812)
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キーワード | 共焦点レーザー顕微鏡 / 茸状乳頭 / 味蕾 / 退縮 / 再生 / 鼓索神経 |
研究概要 |
鼓索神経切断後の茸状乳頭味蕾退縮過程および再生過程の解明 1.研究方法:これまでに中耳手術中に鼓索神経が切断された7症例の舌表面を共焦点レーザー顕微鏡で継時的に観察を行ってきた。舌の先端から2cm後方で、2cm外側に相当する部位は、同側の鼓索神経のみによって支配される領域であるので、この部位に分布する茸状乳頭10個を0.5%メチレンブルーで染色し、その乳頭を共焦点レーザー顕微鏡から出る赤色レーザー光に合わせることでモニター画面に乳頭内部が映し出される。これを静止画像および動画として記録保存した。特徴的な形態を有する茸状乳頭、あるいは特徴的な配列を示す味蕾を有する茸状乳頭があれば、同一の乳頭を継時的に観察した。 2.観察項目:(1) 中耳手術中に鼓索神経が切断された7症例において、術後定期的に舌表面を観察し、茸状乳頭味蕾が消失し始めるまでの日数、完全に消失するまでの日数を同定。(2) 鼓索神経が切断された症例において、茸状乳頭内に味蕾が再生するまでの期間を同定。 3.結果:(1) 鼓索神経切断後、数日~20日で味蕾の変性・消失が始まり、平均約50日ですべての味蕾が消失したが、乳頭毎・個人毎に差が大きかった。(2) 鼓索神経切断後に茸状乳頭が一旦消失した後、術後5ヵ月~8ヵ月目に味蕾が再生し始めた。その後、味蕾数が増加傾向にある群、味蕾が明らかに再生しているが増加傾向がみられない群、味蕾再生なしの3群に分類された。味蕾数が増加傾向にある群では、どの時点で増加が停止するか、観察を継続中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の最終目標は鼓索神経を切断した症例において、茸状乳頭の味蕾が消失するまでの日数、さらに味蕾が再生するまでの月数を同定することである。研究開始2年で鼓索神経切断後に味蕾が消失するまでの日数を観察できた症例は7例であり、味蕾消失までの日数は平均約50日であることが判明した。しかし、各乳頭、個人によって大きな差がみられた。これらの結果はヒトで初めて解明されたものであり、英論文 (Otology Neurotology, 2014b) として発表したが、査読者の評価は極めて良好であった。 鼓索神経切断後に再生した味蕾の存在を、生体用共焦点レーザー顕微鏡によって非侵襲的に観察できることを証明し、英論文 (Otology Neurotology, 2014a) として発表した。共焦点レーザー顕微鏡によって観察された味蕾数は、乳頭の生検材料を用いて組織学的に観察した結果と一致し、茸状乳頭を生検しなくても味蕾の再生を証明できたという点において、画期的な成果であると考えられる。 この他、20歳代から70歳代までの10歳毎の群において、電気味覚検査域値と茸状乳頭味蕾数に差がないかを検討したが、現時点では茸状乳頭1個当たりの平均味蕾数に大きな差はみられないことが判明している。また、慢性中耳炎、真珠腫性中耳炎患者の術前における平均味蕾数を正常者と比較した。その結果、真珠腫性中耳炎の中でも緊張部型真珠腫では、電気味覚検査域値の上昇と味蕾数の減少が認められる症例が多く認められた。これは鼓索神経が走行する鼓室内において、真珠腫から産生される炎症性サイトカインによって鼓索神経線維の変性が引き起こされたと推測される。その結果として、茸状乳頭味蕾数の減少、ひいては味覚機能の低下へ結びつくと考えられた。以上の結果もこれまでにない新しいものである。
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今後の研究の推進方策 |
鼓索神経切断後に茸状乳頭味蕾がすべて消失するまでの日数は解明されたが、味蕾が再生するまでの月数、味蕾数の増加が停止するまでの月数については、あと1年の研究期間で解明できると考えている。その成果は英論文として投稿する予定である。 さらに、共焦点レーザー顕微鏡で観察する症例数を増やすことにより、若年者と高齢者の間で茸状乳頭味蕾数に差がないこと、中耳炎症例の中でも緊張部型真珠腫においてのみ鼓索神経が障害され、その結果として味覚機能の低下、味蕾の減少・消失に至ることを証明し、英論文として発表する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度に6か月間レーザー顕微鏡をレンタルするために必要な額は66万円であるため、次年度支払請求額の大部分を占めることになり、消耗品代、論文投稿費用、研究発表に要する旅費や宿泊費が不足する。そのため、平成25年度研究費の一部を26年度用として繰り越した。 6か月間レーザー顕微鏡をレンタルするための経費66万円、消耗品代約5万円、学会発表および論文投稿に必要な費用約22万円として使用する予定である。
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