耳科領域において,黄色ブドウ球菌は慢性中耳炎の起炎菌の約半数を占める.黄色ブドウ球菌がメチシリンに対する耐性遺伝子を獲得したものをメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)といい,治療に難渋することがある.故に,MRSA感染症が重篤になる原因について薬剤感受性や毒性などの点から議論が繰り返されている.また,臨床経過からMRSAは医療機関において病原となった病院感染型MRSAと一般社会に存在する市中感染型MRSAに大別されが,近年のグローバル化の中で臨床経過から両者を区別することは難しいともいわれている. 慢性中耳炎の耳漏から分離された黄色ブドウ球菌を対象に、遺伝子解析(ゲノムタイピング)にて黄色ブドウ球菌の系統を解析し,本邦において病院感染型の代表とされるClonal Complex(CC)5と市中感染型のCC8について,抗MRSA薬の最小発育阻止濃度(MIC)をE-testを用いて検討した. VCMのMIC値は全て1.5ug/ml以上となり,病院感染型の40%,市中感染型の80%において2ug/mlとなった.LZDのMIC値は病院感染型が0.75~0.5ug/mlであったのに対し,市中感染型は2~6ug/mlであった.次にCLDMのMIC値は病院感染型が全て256ug/ml<で,市中感染型は1例のみ256ug/ml<で残りの4例は0.064~0.084ug/mlであった.MINOのMIC値は病院感染型が6~12ug/mlで,市中感染型は0.064~0.094ug/mlであった.一方,TEIC,DPT,SM/TMP,RFPのMIC値には病院感染型と市中感染型の間に差は認められなかった。院内細菌検査室における薬剤感受性における両者の差も明らかであった。 院内細菌検査室における薬剤感受性から両者を区別することは可能と思われ、臨床現場にて治療方針の決定に寄与すると考えられた。
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