真珠腫性中耳炎および癒着性中耳炎の再発、再癒着を防止するために、術後に障害された中耳粘膜を早期に再生させることを考え、基礎実験として中耳骨胞を有する家兎を用いて人工中耳粘膜及び中耳粘膜シートの作製に成功し、移植により粘膜再生が促進されることを確認した。またヒト中耳粘膜シートの作製にも成功した。さらに実際の臨床応用を考え、十分な量の組織の採取が外来で可能な鼻腔粘膜の上皮細胞を用いた細胞シートの作製にも成功した。 移植用の鼻粘膜上皮細胞シートの作製には、東京女子医大先端生命医科学研究所で開発された温度応答性培養皿に着目した。細胞シートを用いた再生医療は、すでに大阪大学医学部眼科と東京女子医科大学先端生命医科学研究所の共同研究での角膜上皮幹細胞疲弊症治療や東京女子医科大学消化器外科、東京女子医科大学先端生命医科学研究所での内視鏡的粘膜切除術(EMR)にともなう人工食道潰瘍の治療において臨床応用に成功している。 前臨床試験の良好な結果を踏まえ、「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」に準じ、厚生労働省に申請を行い、第78回厚生科学審議会科学技術部会で正式に承認され、厚生労働大臣からの意見書も取得し、ヒト臨床研究を開始した。現在までに4人の真珠腫性中耳炎および癒着性中耳炎の患者に細胞シート移植を施行し経過は非常に良好である。
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