研究課題
基盤研究(C)
申請者はこれまで、「加齢性難聴にエピジェネティック制御不全が関連する」という独自の仮説に基づき、進行性/加齢性難聴動物モデルDBA/2Jマウスに対するエピジェネティック調節剤投与により、聴力低下の有意な抑制に成功してきた。本研究は同動物モデルを用い、遺伝子発現網羅解析と統計学的遺伝子ネットワークパスウェイ解析およびエピジェネティック制御機構解析を組み合わせて、薬理作用の分子機序を解析し、より効果的な進行性/加齢性難聴の予防・治療剤を提案し、その効果を検討することを目的とする。平成24年度は、薬剤投与・非投与動物群間の蝸牛において、難聴進行にエピジェネティック制御調節により発現量が変化する遺伝子群・分子経路の同定をめざした。4週齢、12週齢(聴力低下前後)、および薬剤投与により聴力低下を抑制した動物、各群5頭計15頭の片側蝸牛より全RNAを抽出し、マイクロアレイ法を用い、網羅的遺伝子発現解析を行なった。3群を比較し、群間で統計的有意差がある、聴力低下に関連する候補遺伝子群を検出し、また候補分子経路の同定を試みた。さらに複数の候補遺伝子について、定量的PCR法および免疫組織化学的検証を行った。薬剤投与群蝸牛においては、内耳形態形成遺伝子、熱ショック応答遺伝子群などの発現がコントロール群に比較し有意に上昇しており、一方、特定の神経伝達関連因子の発現が低下していた。エピジェネティック調節剤は複数の遺伝子ネットワークパスウェイ制御を介して、蝸牛細胞機能の低下を防止している可能性が見出された。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、本年度で遺伝子発現の網羅的解析より、薬剤投与の影響で発現上昇もしくは抑制される遺伝子候補を同定、検証を行い、分子メカニズムの一端を解明しつつある。
平成25年度は、細胞系および蝸牛細胞初代培養系を用い、薬剤投与により発現量変化を及ぼした遺伝子のエピゲノムレベルにおける分子機序(ヒストン修飾レベル変化、DNAメチル化レベル)を、DNAを用いたメチル化DNA特異的PCR、クロマチン免疫沈降-PCR法によって検証計測し検討する。さらに細胞系実験において、各種薬剤投与による、細胞生存率に対する影響を濃度・経時的に計測し、細胞機能・生存を有効に維持すると考えられる薬剤の最適な組み合わせおよび濃度を予測する。検討する薬剤には、研究者がこれまでに見出してきたエピジェネティック制御剤だけでなく、今回見出した候補遺伝子機能を標的とする薬剤も検討対象に含める。
次年度(平成25年度)は細胞培養関連の物品費、TUNEL法によるアポトーシス陽性細胞数の計測など組織化学的検討用の物品費について、重点的に研究費を使用する。また、国際学会への発表1回、国内学会への発表を2回予定、論文投稿を1報予定している。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (5件) 備考 (1件)
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