研究課題
申請者はこれまで、「加齢性難聴にエピジェネティック制御不全が関連する」という独自の仮説に基づき、進行性/加齢性難聴動物モデルDBA/2Jマウスに対するエピジェネティック調節剤投与により、聴力低下の有意な抑制に成功してきた。本研究は同動物モデルを用い、遺伝子発現網羅解析と統計学的遺伝子ネットワークパスウェイ解析およびエピジェネティック制御機構解析を組み合わせて、薬理作用の分子機序を解析し、より効果的な進行性/加齢性難聴の予防・治療剤を提案し、その効果を検討することを目的とする。平成25年度は、前年度の薬剤投与・非投与動物群間の蝸牛で網羅的遺伝子発現解析を行い抽出された複数の候補について、定量的PCR法および免疫組織化学的検証による候補の絞り込みを進めた。また、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤の投与により、ヒストンアセチル化が蝸牛組織内で上昇していることを免疫組織化学的手法で確認し、薬剤投与が実際に蝸牛内細胞に到達し、直接効果を及ぼしていることを明らかにした。細胞培養実験、また難聴発症前の蝸牛における遺伝子発現量との比較検討も加え、最終的に、エピジェネティクス調節薬剤投与により有意に蝸牛内で発現量が上昇する遺伝子候補のうち、分子標的となりうる候補を1つに絞りこんだ。 本遺伝子産物はイオントランスポーターをコードしており、蝸牛細胞の機能の維持に関与していることが予測された。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、本年度で遺伝子発現の網羅的解析より、薬剤投与の影響で発現上昇もしくは抑制される遺伝子候補を同定、検証を行い、分子メカニズムの一端を解明しつつある。エピジェネティクス調節機構は、多様な酵素やマイクロRNAが関与する複雑な遺伝子転写調節機構であり、難聴進行抑制のための分子標的を設定することに困難が予想された。しかし本年度の研究により、エピジェネティクス調節機構により調節され、難聴進行抑制薬剤の開発のための分子標的となりうる候補遺伝子を、少なくとも一種類同定することに成功した。
平成26年度は、進行性/加齢性難聴モデルマウスを用い、昨年度までに同定した候補遺伝子を分子標的として、これを上昇させる薬剤のマウス個体への投与により、聴力の低下抑制が可能かどうかを聴性脳幹反応(ABR)法により検討する。この時、標的遺伝子発現量の変化を、分子生物学的および免疫組織学的手法により解析し、従来のエピジェネティクス調節剤投与の結果と比較する。
平成25年度は、細胞・組織培養実験系の条件検討に多大な時間を費やし、実験動物購入費および関係する試薬・消耗品購入費が当初の予定より大幅に減少したことが、次年度繰越額が生じたことの一番の原因である。また実験の遅れから国内外の学会参加・発表予定が各1回中止となり、旅費の出費額が減少し、さらに論文投稿・出版費も計上しなかった。平成26度は動物実験に重点的に研究費を配分し、難聴進行の抑制実験の成否にかかわらず本研究結果をまとめ、国際誌への投稿をおこなう。また、国内外の学会での発表を予定している。論文の投稿・出版費、学会参加費、旅費にも本研究費を用いる。
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