研究課題
慢性副鼻腔炎は,粘膿性鼻漏,鼻閉,嗅覚障害,頭重感などの生活に支障をきたす症状が長期にわたって持続し,かつ比較的罹患率の高い疾患である.近年,マクロライド系抗菌薬の少量長期投与などの治療法により治癒率の向上を得たものの,従来の治療法では改善しない予後不良例が徐々に増加してきており問題となっている.本研究課題は,このような治癒寛解が困難な慢性副鼻腔炎を対象とし,局所に存在する線維芽細胞の表現型がウィルス感染などの何らかの環境因子により変化し,その結果炎症細胞が誘導されて浸潤し難治性の慢性炎症を引き起こすという仮説を証明することによって,新規治療薬の開発に貢献することを最終的な目的としている.慢性副鼻腔炎患者を,喘息を合併しない群(CRS群),喘息を合併する群(Aspirin Tolerant Asthma; ATA群),アスピリン喘息を合併する群(AIA群)に分類し,倫理委員会の承認のもと患者の同意を得たうえで,手術時に採取した鼻組織より線維芽細胞を培養し種々の検討を行った.その結果,喘息を合併した慢性副鼻腔炎患者由来の線維芽細胞(ATA群,AIA群)では,qRT-PCR,ELISAによる解析において,poly I:C刺激によるIP-10/CXCL10の発現が有意に増強していた.また,ATA群では, 主にNFκBを介するTNFα刺激で, AIA群ではTNFα刺激だけでなくIRF3やIRF7を介するIFN-β刺激でも同様な増強効果が認められた.免疫染色において,喘息を合併した慢性副鼻腔炎患者の鼻茸組織においては,既に報告されているCD3(+)GATA3(+)細胞すなわちTh2 細胞の浸潤が増強しているだけでなく,CD3(+)T-bet(+)細胞すなわちTh1細胞の浸潤も増強していた.特にこの傾向はAIA群に顕著であった.
3: やや遅れている
平成24年度より東京慈恵会医科大学から東邦大学へ所属研究機関を変更したため,それによる倫理委員会の再申請や種々の事務的な処理の問題が生じ,研究体制の再構築が必要であった.
喘息を合併した慢性副鼻腔炎患者由来の線維芽細胞において,poly I:C刺激によるIP-10/CXCL10の発現が有意に増強していたことから,何等かの線維芽細胞の表現型の変化が生じている可能性があるが,このメカニズムの解明のためにはさらなるエピジェネティクス解析などが必要である.そのため,これまで手術時に採取した副鼻腔粘膜より線維芽細胞を培養し,IFN誘導性遺伝子のプロモーター領域を中心にヒストンの化学修飾の変化の確認を行う.その結果と前述した臨床情報とを統計学的に解析するため,予後不良な難治症例由来の線維芽細胞でIFN誘導性遺伝子のシグナル伝達経路で発現を増強させている因子の同定を行っていく予定である.
平成24年度の所属機関変更の影響による研究計画の遅れのため,平成24年度および25年度にわたり,次年度に使用する研究費が生じてしまった.その後,研究計画は順調に遂行されているが,所属研究機関変更による初期の遅れを取り戻せなかったため,平成26年度にも次年度使用額が生じてしまった.
平成26年度に引き続き物品費にも一部使用する予定だが,本研究課題の最終年度として,主に研究成果の報告を目的とした旅費や,論文投稿料,外国語論文校正料,論文別刷費用に充当する予定である.
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 3件) 図書 (2件)
アレルギー
巻: 64 ページ: 38-45
耳鼻咽喉科展望
巻: 58 ページ: 24-30
Allergy
巻: Epub ahead of print ページ: 未定
10.1111/all.12644.