近年、癌細胞は骨髄性抑制細胞を誘導し免疫システムを抑制することが報告され、治療抵抗性に関連する重要な因子と考えられている。本研究は、頭頸部癌患者における骨髄性抑制細胞の免疫抑制への関与と機序の解明、関連するmicroRNA(miRNA)の解明を目的として行われた。千葉大学にて治療を行った頭頸部腫瘍患者に対し研究の説明と同意取得を行い、治療前の採血より、末梢血中の骨髄性抑制細胞(MDSC: myeloid-derived suppressor eclls)のプロファイルおよび変動についてフローサイトメトリーにて解析した。顆粒球系MDSC(granulocytic MDSC: G-MDSC)および単球系MDSC(monocytic MDSC: M-MDSC)ともに頭頸部扁平上皮癌でのみ有意な増加を認めたが、G-MDSCのみが末梢血T細胞と有意な逆相関を認め、T細胞の抑制が示唆された。一方、NKT細胞に対しては有意な相関は認めなかった。T細胞とNKT細胞のMDSCに対する影響の違いを調べる目的で、末梢血単核球分画よりCD15ビーズを用いG-MDSCを除去し、NKT細胞のリガンドであるαガラクトシルセラミドの刺激によるNKT細胞の増殖活性を比較した。その結果、G-MDSCはNKT細胞の活性化に影響しないことを確認した。機序として過酸化水素(H2O2)に対する感受性の違いについて検討した。T細胞およびNKT細胞の培養液にH2O2を添加するとT細胞は濃度依存的に細胞死が増加するのに対しNKT細胞の変化は小さく有意な違いが認められた。NKT細胞はH2O2に耐性であり、G-MDSCに対する感受性の違いを説明する機序と示唆された。またG-MDSCの増加群と非増加群の二群に分け、手術検体のmiRNAの網羅的な発現解析を行った。2群の比較から発現に有意差のある候補miRNAを5つ選択した。PCRによる検討では患者血清中に選択された5つのmiRNAの発現は認めなかったが、腫瘍内に発現する5つのmiRNAはMDSCの増殖との関連が示唆された。
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