研究課題/領域番号 |
24592609
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
吉武 洋 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), その他 (00396574)
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研究分担者 |
荒木 慶彦 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (70250933)
横井 秀格 杏林大学, 医学部, 准教授 (80317487)
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キーワード | TEX101 / Ly6k / 頭頸部癌 / 癌・精巣抗原 |
研究概要 |
TEX101は、我々が発見した生殖細胞マーカー糖タンパク質である。本分子は生殖細胞以外の正常組織には発現しないことから、配偶子形成あるいは受精過程に重要な役割を果たしていると考えられている。TEX101はそのアミノ酸配列中にシステインリッチドメインを有するGPIアンカー型タンパク質で、構造的にはLy-6/uPARファミリーに属する分子である。この分子群の一部は、癌抗原として種々の癌細胞に発現しているが、我々はTEX101もまた80%以上の頭頸部扁平上皮癌症例で癌組織に発現していることを見いだし、本分子が新規の癌関連抗原であることを報告した。さらに頸部リンパ節転移症例において本分子の発現頻度が低下している傾向を認めた。以上の結果からTEX101は癌細胞においてはその細胞接着・遊走制御に関与していると推測された。この推論を裏付けるべく、我々はTEX101遺伝子欠損マウスを用いた検討を行い、本分子が精子の透明帯結合と子宮から卵管への遊走に重要な役割を果たしていることを明らかにした。しかしその詳細な分子メカニズムについては依然不明であるため、我々はTEX101遺伝子欠損マウスのさらなる検討を行った。本マウスの精巣では、TEX101の共役分子の一つであるLy6k分子の遺伝子発現は認められたが、本分子はタンパク質レベルでは検出されなかった。そこでLy6k遺伝子の転写の有無をポリソーム解析法で検討したところ、本遺伝子の転写はTEX101遺伝子欠損マウスにおいても正常マウスと同等に行われていた。以上の結果は、Ly6kはTEX101遺伝子欠損マウスの雄性生殖細胞においてもタンパク質として生成されているが、TEX101分子の欠損状態では本分子は生殖細胞に安定に存在できないことを示している。従ってTEX101が細胞接着・遊走制御機能を発揮するためにはLy6k分子との共役が必須である可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は新規癌・精巣抗原TEX101を標的とした、頭頸部癌のミサイル療法開発を目的に研究を開始した。まずその前段階として、TEX101の生物学的機能に関する研究を行った。我々の作製したTEX101遺伝子欠損マウスを用いた解析によって、本分子が精子の透明帯結合及び卵管への遊走に関与していることが判明した。この結果はTEX101が癌細胞の接着・遊走制御能も有している可能性があり、またこの分子機構にはLy6kが関与していることが示唆される。現在TEX101及びLy6kに対する単クローン抗体の樹立を目指しており、研究はほぼ順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は新規癌・精巣抗原TEX101を標的とした、頭頸部癌のミサイル療法開発を目的としている。そこでまずヒトTEX101特異的単クローン抗体作製のため、手術によって採取した癌組織より癌細胞を分離、継代培養し、頭頸部癌由来細胞株を樹立する。樹立した細胞株はRT-PCR及びフローサイトメトリーを用いて、TEX101発現株・非発現株に分類する。作製したTEX101発現細胞から抗TEX101多クローン抗体を用いたアフィニティクロマトグラフィーによりTEX101を精製する。これを雌BALB/cマウスに免疫した後、脾B細胞と骨髄腫細胞を融合させてハイブリドーマを作製する。作製したハイブリドーマが産生する抗体をELISA法でスクリーニングする。さらに樹立した抗体が細胞膜上のTEX101に反応することを確認するため、フローサイトメトリーでTEX101発現癌細胞株に対する反応性を検討し、反応した抗体だけを抗腫瘍抗体製剤の候補としてストックする予定にしている。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究は新規癌・精巣抗原TEX101を標的とした、頭頸部癌のミサイル療法開発を目的に研究を開始した。我々は癌細胞障害性を持つ抗TEX101単クローン抗体の樹立に着手しているが、同時に我々の研究グループが行っているTEX101に関する分子生物学及び細胞生物学的な基礎研究の過程において、Ly6k分子がTEX101の生物学的機能を発揮する上で重要な役割を果たしていることが明らかとなってきた。既にLy6k分子は癌・精巣抗原として報告されており、癌治療における分子標的として有用である可能性が報告されている。当初の研究計画での標的分子であるTEX101だけでなく、Ly6kをはじめとするTEX101関連分子も加えた新規の頭頸部癌ミサイル療法開発を新たに計画中である。このため次年度使用額が生じた。 我々の研究グループはマウス精巣におけるTEX101とLy6kの細胞生物学的及び分子生物学的機能について研究を進めてきたが、いまだヒト癌細胞におけるこれらの分子機能についての知見は不十分である。そこでまず頭頸部癌細胞におけるTEX101及びLy6kの基礎的研究を進め、この知見をもとに、ミサイル療法におけるより効果的な抗体の開発を行う計画である。
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