TEX101は、我々が世界に先駆けて発見した生殖細胞マーカー糖タンパク質である。本分子は生化学的にはLy-6/uPARファミリーに属するGPIアンカー型タンパク質であり、本遺伝子欠損マウスを用いた研究により、成熟精子が子宮から卵管に移動するための機能維持に必須な分子であることが判明している。加えて本分子は、癌・精巣抗原として80%以上の頭頸部扁平上皮癌症例の癌組織に発現しており、さらに頸部リンパ節転移症例において本分子の発現頻度が低下することが明らかとなっている。これらの結果はTEX101が生殖細胞や癌細胞において細胞接着・遊走制御能を有する可能性があることを示唆している。そこで我々は本分子の細胞生物学的な分子機能を明らかにする目的で、HEK293細胞株にTEX101遺伝子を導入した。本遺伝子導入細胞株においても、TEX101は細胞膜上でGPIアンカー型タンパク質として発現していたが、細胞増殖能や接着能に変化は認められなかった。さらにマウス精巣におけるTEX101共役分子の1つであるLy6kの遺伝子をTEX101発現細胞株に導入しても細胞増殖能及び接着能に影響しなかったが、siRNAを用いて本細胞株のTEX101発現を抑制したところ、Ly6kの発現も減弱した。逆にLy6kの発現を抑制するとTEX101の発現量が減少した。TEX101遺伝子欠損マウス並びにLy6k遺伝子欠損マウス双方において、その精巣内では両分子の発現量が減弱していることから、TEX101とLy6kは互いの分子安定性に寄与していると考えられた。TEX101と同様、Ly6kも癌・精巣抗原として頭頸部癌に発現していることが報告されており、両分子は共同で癌細胞や生殖細胞機能に関与している可能性がある。
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