遺伝性の角膜混濁疾患である角膜ジストロフィーの病態を解明し,それに基づく新しい治療法を開発することを目的として研究をスタートした.本研究の大まかな柱として,角膜ジストロフィーにおける蛋白質翻訳後修飾の関与の証明,角膜ジストロフィーのin vitroモデルの開発,角膜ジストロフィーに対する新規治療法の開発,角膜ジストロフィーのin vivoモデルの開発,角膜ジストロフィーに対する新規治療法の効果の証明があげられる. 角膜ジストロフィにおける異常凝集蛋白質の中心を同定し,同部位を含む合成ペプチドを用いることによって角膜ジストロフィのin vitroモデルを完成することができた.その結果,市販の点眼薬の約80%に含まれる防腐剤である塩化ベンザルコニウムが,ごく低濃度において角膜ジストロフィを悪化させる可能性があることを証明することができた.角膜ジストロフィ患者に対する点眼薬の選択法が大きく変わったといえる. 角膜ジストロフィに対してチオフラビンTという蛍光色素を用いた光線力学療法を開発し,in vitroでの有効性を確認することができた.さらに角膜ジストロフィにおいて異常凝集蛋白質の生成を抑制する合成ペプチドを見いだし,その配列を同定した.このことは,角膜ジストロフィに対して新しい治療法や予防法の基礎を確立したことを意味する.現在,唯一の治療法である角膜移植に対して代替の治療法や予防法を確立したことで,角膜ジストロフィ治療は一変する可能性がある. 最後に角膜ジストロフィ由来の変異型TGFBI遺伝子をマウスにノックインすることにより,角膜ジストロフィを発症しうるマウスを作成した.今のところ角膜混濁が生じる割合には個体差があるものの,新規治療用や治療薬の効果判定に利用する予定である.
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