1.異常タンパク蓄積に関する効果の検討 これまでに見いだしたSTRやmTOR阻害剤のE50K凝集体やSLC4A2と共発現させた場合の空胞形成に対する抑制作用が(他の副次的作用ではなく)確かにオートファジーを介する応答であることを確認するために、マーカー蛋白LC3に対するsiRNAを用いて検討した。2種のsiRNAのうち蛋白産生を低下させた1種は、これら薬剤の効果をキャンセルした。 さらに、この抑制効果について、上記の緑内障性変異による異常タンパク蓄積に加え、ALS原因遺伝子TDP-43(TARDBP蛋白)の部分断片の発現で培養細胞に形成される凝集体に対しても検討した。Casp3認識部位に基づく短縮体を作成し検討した結果、C端側の切断部位の断片TDP-25が顕著に細胞質に凝集する像が得られた。経時的観察により、凝集体に強い細胞毒性があることが示唆された。STR処理により、TDP-25凝集体のサイズが縮小したものや、細胞質や核にのみTDP-25が存在し、凝集体が完全に消失したものが観察され、(緑内障変異E50K変異による細胞内異常構造に加え本現象についても)改善効果が認められた。 2.モデル動物を用いた検討 正常マウスSTRのオートファジー誘導の検討をおこない、脳、脊髄、および眼において、STRおよびmTOR阻害剤の処理によるLC3の増加を認めている(筋では認められない)。これを踏まえて、オートファジー誘導による異常タンパク蓄積の軽減が、in vivoでも発症の抑止に働くかについて、家族性ALSの原因遺伝子SOD1、および孤発性のALS患者の原因遺伝子TARDBPの疾患モデルトランスジェニックマウス2系統を用いた予備検討を実施した。効果は、生存期間、発症時期、罹病期間における運動機能(後肢反射テスト、ローターロッドテスト、行動観察などによる)を評価項目とした。STR、mTOR阻害剤投与群に、生存期間の延長と運動機能の改善傾向がみられた。本傾向は、メスよりもオスにより顕著であった。
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