研究実績の概要 |
アトピー性皮膚炎モデルマウスであるNc/Ngaマウスの結膜組織では、正常マウスに比較して知覚神経の分布が多く、かつ神経線維が結膜上皮層内へより伸長していた。Nc/Ngaマウス結膜組織ではトリプターゼ陽性肥満細胞数が増加しており、組織中のトリプターゼ活性も増強していた。正常マウスにトリプターゼを点眼すると痒みに伴うと思われる眼引掻き行動が惹起出来た。以上の内容が本研究最終年度の成果である。 以前私達は、ヒト春季カタル巨大乳頭組織においても正常結膜組織に比較して神経線維の分布が多く、かつ結膜上皮層内への神経線維の伸長が多い事や、トリプターゼ陽性肥満細胞が多数浸潤していることを明らかにしている。そして伸長している神経線維にはトリプターゼの受容体であるprotease activated receptor2が発現していることも明らかにしている。一方in vitroでの検討では、ヒトトリプターゼは好酸球を遊走させるケモカインであるeotaxin-1, -3を分解し、好酸球遊走能を低下・消失させることも明らかにした。培養ヒト結膜線維芽細胞をIL-4/IL-13+TGF-β1で刺激するとeotaxin-1, -3を産生する。そこにトリプターゼを添加するとeotaxin-1, -3が検出できなくなる。またリコンビナントeotaxin-1, -3にトリプターゼを作用させるとその好酸球遊走活性が消失する。以上の事よりトリプターゼは結膜線維芽細胞の産生するeotaxin-1, -3を分解し、局所への好酸球浸潤を抑制していると考えられる。 本研究を通して明らかになったことは、結膜組織に浸潤した肥満細胞より放出されるトリプターゼは病的結膜組織で増加・伸長した神経線維に発現しているPAR2を介し痒みを惹起する。一方トリプターゼはeotaxin-1, -3を分解し、結膜局所への好酸球浸潤を抑制する。トリプターゼには痒みを惹起する作用と好酸球遊走を抑制するアレルギーの病態にとって相反する病態を起こす作用があることが明らかになった。
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