研究概要 |
眼内リンパ腫は主に中枢神経に病変が合併し, 5年生存率が約60%とぶどう膜悪性黒色腫や網膜芽細胞腫と比較しても生命予後不良な眼内悪性腫瘍である. 生命予後改善のためには早期に診断し, 中枢神経を含めた管理が重要である. 一方, 眼内リンパ腫は仮面症候群として知られ, ぶどう膜炎との鑑別が困難であるため、診断や治療が遅れることが多い。従来より眼内リンパ腫とぶどう膜炎の鑑別には、検眼鏡的所見に加え、硝子体手術によって得られた検体を用いた細胞診、免疫グロブリンの遺伝子再構成の検索、フローサイトメトリーによるモノクローナリティーの評価、インターロイキン(IL)-10やIL-6の測定が重要とされ、その中でも、液性因子であるIL-10とIL-6は最も眼内リンパ腫の診断に有用であることが知られている。 そこで、眼内リンパ腫とぶどう膜炎群の眼内における種々の液性因子を包括的に解析し、比較検討した。眼内リンパ腫の硝子体液中ではぶどう膜炎と比較してB細胞増殖に関わるIL-10, bFGF、B細胞の遊走に関連したBCA-1とSDF-1α、単球やT細胞およびB細胞の遊走に関連したMCP-1、MIP-1α、MIP-1β、血管透過性および新生血管に関連したVEGFが有意に高値であった。一方、ぶどう膜炎ではTh1細胞分化に関わるIFNγ、T細胞の遊走に関連したIP-10、炎症に関わるIL-6は眼内リンパ腫と比較して有意に高値であった。 以上の結果から、眼内リンパ腫ではB細胞の増殖や遊走の他に、炎症に関わる液性因子も病態の形成に関与している可能性がある。また、ぶどう膜炎との鑑別に硝子体液中のIL-10/IL-6、BCA-1などを測定することは、眼内リンパ腫の診断の感度・特異度が上昇する可能性が示唆された(Invest Ophthalmol Vis Sci 2012:53:5395-5402)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度我々は、眼内リンパ腫とぶどう膜炎患者の眼内液を用いて、Cytometric beads array法により40種類以上のサイトカイン、ケモカイン、増殖因子、アポトーシス関連因子(IL-1α,IL-1β, IL-2, IL-3, IL-4, IL-5, IL-6, IL-7, IL-8, IL-9, IL-10, IL-12, IL-13, TNF-α, TNF-β, IFN-γ, MCP-1, MIP-1α, MIP-1β, IP-10, Mig, SDF-1α, SDF-1β, BLC, RANTES, TARC, LARC, ELC, SLC, Fractalkine, VEGF, PEDF, LT-α, Angiogenin, basic FGF, Fas Ligand, Eotaxin, GM-CSF, G-CSF, OSM)を包括的に解析することができ、Invest Ophthalmol Vis Sciに掲載することができた。またコントロール群として他の眼疾患(黄斑円孔、黄斑上膜、網膜剥離、網膜静脈閉塞症、糖尿病網膜症など)に対して硝子体手術を行い効率よく検体を採取することができた。 さらに、眼内液だけでなく、次年度以降の検討項目である遺伝子発現の網羅的な解析のため、眼内液から単離されたB細胞と炎症細胞、末梢血B細胞からDNAおよびRNAを抽出することも同時にできている。 そのため、現時点ではおおむね研究は順調に進展している。
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