研究実績の概要 |
アラキドン酸(AA)食摂取のN-methyl-N-nitrosourea(MNU)誘発網膜変性症に対する影響をみるため雌雄のSprague-Dawley(S-D)ラットにAA量の異なる食餌(対照食,0.008%AA; 低AA食, 0.13%AA; 中等AA食, 0.50AA; 高AA食, 2.01AA)を交配2週間前に開始し、妊娠期(3週間) 、授乳期(3週間)と離乳後1週間継続し、生後21日齢の離乳時雄ラットに50mg/kg・MNUを腹腔内投与し、28日齢時に屠殺して網膜を観察した。いずれの食餌を摂取した群とも毒性はみられず、体重増加はAA食餌群が軽い傾向ではあったが有意差はみなかった。視細胞比率(視細胞厚/全網膜厚)と網膜傷害率(視細胞層が≦4層の網膜長/全網膜長)をみたところ、対照群(19.4%、39.5%)、低AA群(32.0%,21.2%)、中等AA群(46.7%, 2.7%)、高AA群(43.6%、6.1%)となり、対照群中等ならびに高AA群では有意な傷害の軽減をみた。よって、周生期の≧0.5%のAA食餌添加はMNU誘発網膜変性を有意に抑制した。しかし、10週齢の雄S-Dラットに6週間上記のAA含有食を摂餌させ、15週齢時に60mg/kg・MNUを投与し16週齢時に屠殺して網膜を比較したところ、病態抑制はみなかった。よってAAの網膜に対する有効性は作用時期が重要と考えられた。以上、周生期のAA投与は内膜変性症に対して有効であるが、AAの周生期投与はMNUにより網膜変性症とともに誘発される小脳低形成や腎の前癌病変は抑制せず、膵の細葉過形成の出現に対してはむしろ促進した。なお、n-9系脂肪酸であるミード酸(MA)には網膜保護効果はみられなかった。
|