研究課題
iPS細胞を始め、再生医療の進歩には目覚ましいものがある。中でも角膜上皮の再生医療は他分野に先駆け臨床応用が行われ、良好な成績が報告されている。しかしながら、現状ではalloの角膜上皮または自家口腔粘膜上皮を用いた培養上皮細胞移植にとどまり、臨床的効果は限定的である。自己の表皮細胞から形質転換させた角膜上皮細胞を用いることが可能となれば、臨床的効果は飛躍的に改善されると推測される。本研究では、マウス表皮細胞、表皮sp細胞を用い、マウス強角膜片を用いた器官培養ならびに輪部線維芽細胞(MLSF)との共培養による細胞シート作製を検討し、これらの培養系において角膜上皮様細胞への形質転換(K12遺伝子発現)が誘導される可能性を示した。さらに、どのような環境あるいは因子が形質転換に必要かについて検討するため、角膜実質細胞の働きに着目し、トランスクリプトーム解析を行い、形質転換に関与する可能性のある複数の因子を見出すことが出来た。これら因子には、5種類のWntシグナルに関連する因子を含む分泌タンパク質のコード遺伝子が21種、細胞外マトリクスの構成タンパク質をコードする遺伝子が15種含まれていた。また、Wnt関連因子はその多くがsFRP2やDKK3などのWnt阻害因子であった。Wnt阻害因子のノックアウトが角膜上皮の表皮様分化を促進することが知られており、本研究で見出された因子によるWntシグナルの調節が角膜上皮の分化に関与する可能性が考えられる。今後、Wnt関連因子を含む輪部実質由来因子の検討をさらに進め、上皮細胞の分化における働きを解明することで、器官培養およびフィーダー細胞を必要としない培養方法の開発が可能になると考えられる。また、これら輪部因子に関する知見は、細胞移植のみならず、輪部機能を再生するための遺伝子治療または薬物治療の新たなターゲットとしても大いに期待できると考えられる。
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