網膜血管閉塞による網膜機能障害の疾患の代表が網膜血管閉塞症であり、現在失明原因の第2位となっている。網膜中心静脈閉塞症は視神経乳頭内の篩板内圧が上昇して静脈内に血栓が生じることで引き起こされるといわれ、血栓の早期除去が唯一の治療法と考えられてきたが、篩板内静脈への介入技術が無いため、除去方法は長く開発されていない。これまでも網膜静脈への血管内アプローチ手技が発表されているが、いずれも実用化には至っていない。その理由には、手技が難解で、約100μm以下の血管内に器具を挿入することが不可能であること、加えて、その再現性が乏しいことが考えられる。 これまでの網膜血管内治療には二つの問題点があげられる。一つは手技すなわち硝子体手術自体の問題である。二つめは網膜血管治療のために十分な器具の開発がされていない点である。数ミクロン単位の針を作製する技術とその評価が最大の問題とされていた。 そこで我々は特殊な微小血管針を作製し、これを直接病変となる網膜血管に穿孔する眼科領域初の網膜血管内治療プロジェクトを立ち上げた。これにはいくつかの工業技術と動物実験を繰り返し行うことが必要とされ、研究開発に約5年以上費やした。ここ数年でようやく臨床試験段階に入り、臨床応用が目前となった。 網膜中心静脈閉塞症の患者を対象に組織型プラスミノゲンアクチベータを網膜中心静脈内に投与し、その後の黄斑部浮腫の状態、眼循環、視機能を調べることで網膜中心静脈内への直接的投与療法の確立を目指した。今回の研究では100眼以上を対象にし、本治療のさまざまな利点と今後の課題を浮き彫りにすることが出来た。 網膜内への薬物投与治療は技術的には可能になったものの、その後の網膜組織の反応や改善に関してはまだ検討の余地がある。しかし本治療が初めての網膜血管内へのアプローチであることを考えると、これを更に推進させるが必要がある。
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