研究課題/領域番号 |
24592675
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
川崎 諭 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (60347458)
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研究分担者 |
上野 盛夫 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40426531)
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キーワード | 膠状滴状角膜ジストロフィ / 不死化 / 幹細胞 / TACSTD2遺伝子 / p53 / Rb / 細胞老化 |
研究概要 |
膠状滴状角膜ジストロフィはTACSTD2遺伝子の機能喪失性変異による疾患であり、遺伝子治療がこの疾患には適応可能と考えられる。しかしながらin vivoにおける角膜上皮細胞における遺伝子導入効率の低さの問題から、培養環境で遺伝子治療を行い、患者に移植するというアプローチが最も見込みがある方法ではないかと考えている。前年度に不死化に用いられる遺伝子の導入によって角膜上皮細胞がPD100を超え維持されたこと、幹細胞そのものの数が増えた可能性が考えられることを示した。今年度には不死化の遺伝子を発現させるためのRNA発現ベクターの構築とともに、膠状滴状角膜ジストロフィの遺伝子治療の効果と必要な遺伝子導入効率についての検討を行った。RNA発現ベクターは構成パーツをPCR等で増幅して精製するには至ったもののパーツの1つであるpoly A配列をベクターに組み込むことが困難で、現時点でクローニングには至っていない。膠状滴状角膜ジストロフィの遺伝子治療の効果とそれに必要な遺伝子導入効率についての検討については、膠状滴状角膜ジストロフィ患者の角膜上皮細胞を不死化したgHCE細胞に野生型のTACSTD2遺伝子をレンチウイルスで遺伝子導入してタイトジャンクション機能を調べた。さらに正常角膜上皮細胞を不死化したnHCE細胞とgHCE細胞を様々な比率で混合して上皮バリア機能を検討した。結果として、gHCE細胞に野生型のTACSTD2遺伝子を遺伝子導入するとクローディン1および7の発現が回復し、また細胞膜への発現分布が回復した。また上皮バリア機能は遺伝子導入効率に対して直線性に上昇せず、下に凸の双曲線に近似して上昇した。そのため、上皮バリア機能を野生型の50%まで回復させるためには80%の遺伝子導入効率が、90%まで回復させるためには95%の遺伝子導入効率が必要であることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
RNA発現ベクターの構築には遅延しているが、来年度には遺伝子の人工合成を行い、キャッチアップしたいと考えている。また当初の予想通り、上皮バリア機能の改善にはかなり効率の高い遺伝子導入が必要であることがわかった。一般的にはレンチウイルスと言えども遺伝子導入効率は40-50%程度であり、その程度の遺伝子導入では上皮バリア機能の回復はせいぜい20%程度しか得られない。20%程度の改善であれば角膜移植後の再発までの期間はほとんど延長しないことが予想され、治療とは言えない。少なくとも80%程度の改善を得られないと遺伝子治療のリスクに応じた意味のある治療とは言えないと考える。この事実の確認によって、膠状滴状角膜ジストロフィに対する遺伝子治療の戦略というものが明確になったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
来年度には人工遺伝子の利用によるRNA発現ベクターの構築を完了し、それを用いて細胞の一時的な増殖亢進を起こすことが可能であるかどうかを検討する。もしそれが困難なようであれば、センダイウイルスによる方法に切り替える予定である。またTACSTD2遺伝子は膜タンパクであり、FACSによって遺伝子が導入された細胞だけを分離採取することでも十分な効果を得られる可能性もある。その場合は細胞クローニングという角膜上皮細胞の細胞老化を引き起こす可能性のあるステップを省略できるため、一時的な不死化の条件も幾分緩和することが可能と考えている。来年度はその点についても検討したいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度はベクター構築等の前年度で購入した残存試薬にていくつかの実験が遂行できたため、当初想定していたよりも少額の使用に留まった。 温度感受性センダイウイルスを用いたゲノムへの組み込みのないex vivo expansionを来年度の選択肢の一つとして考えている。その場合、自前での調整は不可能で、業者に委託せざるを得ないが、その際の費用として考えている。
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