研究課題
緑内障は進行性の網膜神経節細胞死と定義される。現在、緑内障に対する効果が確立されているものは降眼圧治療のみであるが、これに抵抗性の緑内障も存在するため、網膜神経細胞を保護する薬剤の開発が望まれている。これまでに申請者らは野生型マウス及びヘテロ型PACAPKOマウスを用いてNMDA硝子体内投与による緑内障モデルを作成し、網膜神経節細胞死を評価したところ、ヘテロ型PACAP遺伝子欠損マウスではNMDA投与後の網膜障害が野生型と比較して有意に増加することを報告した。さらに、NMDA投与後の網膜では内顆粒層におけるBrdU標識細胞が有意に増加し、それらBrdU細胞のほとんどがマクロファージ/マイクログリアマーカーであるIba-1陽性反応と局在が一致した。網膜内マクロファージ/マイクログリア数と神経節細胞生存数には有意な正の相関関係が認められたことから、本年度はPACAPの網膜保護作用と網膜内で増加するマクロファージ/マイクログリアの関係に焦点を当てて研究を進めた。NMDA投与後の網膜において、PACAPの投与により坑炎症作用を持つマクロファージ/マイクログリアのサブタイプであるacquired deactivation型の指標であるとされているTGF-β1とIL-10のmRNA量が優位に増加した。これらTGF-β1とIL-10免疫陽性反応は傷害網膜においてマクロファージ/マイクログリアマーカーと重なった。さらにIL-10遺伝子欠損マウスではPACAPによる網膜保護効果とマクロファージ/マイクログリア数増加作用が減弱された。以上より、PACAPが網膜内のマクロファージ/マイクログリアを増加させ、活性化状態を神経保護に有利なサブタイプへ誘導することにより網膜を保護していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
昨年までに明らかにしたPACAPの網膜保護作用とマクロファージ/マイクログリア数の関連性についてさらに解析を進め、PACAPの網膜保護作用の新たな機構として1)網膜内マクロファージ/マイクログリア活性化状態を保護的に変える、2)保護的なマクロファージ/マイクログリアを網膜内に選択的に浸潤させる、のどちらかの経路が存在することを示唆するデータが得られ、PACAPが神経細胞に直接作用する経路以外に、免疫系を介した作用を示すことを明らかにした。当初の計画通り実験が進行している。
今年度までの研究成果により、PACAPの網膜保護作用がマクロファージ/マイクログリアの免疫作用を介しているのことが明らかとなったが、PACAPがどの細胞に、またどのようにマクロファージ/マイクログリアの免疫作用を調整するのかはまだ不明である。またマクロファージ/マイクログリアがどのように作用して網膜保護に働くのかもまた不明である。来年度はそのメカニズムについて詳細な解析を行う。
本年度の実験計画ではB細胞を持たない遺伝子組み換え動物を購入・繁殖させて実験を行う予定であったが、得られた実験結果より野生型動物を用いたほうが免疫細胞とPACAPの役割に関してより本質的で臨床に近い研究となることが明らかとなった。そのため遺伝子組み換え動物の購入・維持・繁殖にかかかる費用が必要なくなったため。本年度は遺伝子組み換え動物の代わりに、in vivoでsi-RNAを用いて免疫細胞の活性化に関わる因子をコンディショナルにノックアウトする実験を行う予定である。次年度使用額はこの研究に使用する。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件)
J Mol Neurosci.
巻: 51 ページ: 493-502
10.1007/s12031-013-0017-5.