昨年までの研究において、実際に臨床で使用されている、線維芽細胞増殖阻害作用のあるマイトマイシンC(MMC)をGHに浸透させ、これを徐放させて眼圧下降、濾過胞維持、および組織学的検討を加えた。実際のモデル眼への応用の前に、GHを浸透させたMMCCをin vitroにて徐放さ せてその濃度を確認したところ、5X5mmのGH中0.012 mg のMMCが含まれ、これは臨床使用での結膜曝露量の1/20以下に相当するが、3日間における徐放による曝露量はin vitroにおける線維芽細胞増殖抑制 に必要な濃度、0.04mg/gよりも高いことが分かった。すなわち我々がGHから情報させたMMCは、臨床使用濃度よりもはるかに低く、かつ線維芽細胞増殖抑制 には充分な濃度であることが示された。ここでビーグル犬を用いて6匹12眼 を使用し、片眼を処置眼、僚眼を対照眼として実験を行った。処置眼では、通常の緑内障モデル眼を作成し、結膜下にMM Cを包含したハイドロゲル5x5mmを留置、対照眼では緑内障手術モデル眼でマイトマイシンを含んだスポンジを結膜下に留置した後 に除去し、生理食塩水で洗浄し、両眼とも結膜を縫合した後に、4週間後まで眼圧と濾過胞の変化を観察、4週間後に眼球を摘出して 組織学的検討を行った。結果、処置眼と対照眼に眼圧、濾過胞スコアに差は無かった。さらに組織学的検討では、処置眼では対照眼と比較してコラーゲンの密度、線維芽細胞密度、微少血管は有意に高く、結膜組織の厚みおよび細胞増殖の視標であるPCNA(proliferative cell nuclear antigen)陽性細胞数に有意差がなかった。これらの結果から、MMC包含GHを使用することにより、より安全で効果的な緑内障手術を行える可能性が示唆された。
|