研究課題/領域番号 |
24592687
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
佐々 由季生 福岡大学, 医学部, 助教 (80580315)
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研究分担者 |
石橋 達朗 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30150428)
向野 利寛 福岡大学, 医学部, 教授 (40117106)
福島 修一郎 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (40362644)
吉田 茂生 九州大学, 大学病院, 講師 (50363370)
安井 武史 徳島大学, ソシオテクノサイエンス研究部, 教授 (70314408)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 増殖糖尿病網膜症 / ペリオスチン / コラーゲンリモデリング / レーザー脈絡膜新生血管モデル / SHG顕微鏡 / 走査電子顕微鏡 / 線維化 / 網膜色素上皮細胞 |
研究概要 |
本年度は、昨年度までに完成させたSHG顕微鏡を用いた線維化評価モデルを使って、ヒト増殖糖尿病網膜症及び増殖硝子体網膜症増殖膜で遺伝子発現亢進を認めていたペリオスチンについて機能解析を行った。福大筑紫病院及び九州大学附属病院で手術時に採取された硝子体を用いて眼内のペリオスチン濃度を測定したところ、黄斑円孔・黄斑前膜患者硝子体中のペリオスチン濃度は平均0.19ng/ml(n=28)に対して糖尿病黄斑症患者硝子体中では1.48ng/ml(n=20),増殖糖尿病網膜症患者硝子体中には12.16ng/ml(n=163)と糖尿病網膜症患者硝子体中では60倍を超えるペリオスチン濃度の発現亢進を認めた。増殖糖尿病網膜症患者硝子体中には最大で175ng/ml濃度で存在する。そのためin vitro系で用いるペリオスチン濃度を100ng/mlとして機能解析を行った。I型コラーゲンゲル上にヒト網膜色素上皮細胞(RPE)を播種しすぐにペリオスチンを添加して、SHG発現面積率及び発現輝度をリアルタイムに測定し,無刺激群と比較して有意なSHG発現面積率・平均輝度の増加を認めた。SHG光の亢進はコラーゲン線維リモデリングを表し、コラーゲン量及びコラーゲン線維配向・線維径にも影響される。RPE細胞をコラーゲンゲルに包埋したコントラクションアッセイ系では、ペリオスチンはゲル収縮能を持たず、このことからペリオスチンはRPE細胞を介したゲルの牽引にはあまり関与せずに、主に線維化を促す可能性が示唆された。現在生体内でのペリオスチン機能解析目的で、ペリオスチンKOマウスを用いたレーザー脈絡膜新生血管モデルでの線維化の評価を行っている。SHG顕微鏡及び走査電顕を用いて観察し、コラーゲン線維走行及び線維の太さに対する影響を評価中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は九州大学眼科額教室と共同で増殖糖尿病網膜症及び増殖硝子体網膜症患者より採取した増殖組織を用いて正常網膜をコントロールとした包括的遺伝子解析を行っている。この方法で得られた増殖性網膜疾患に対する新規分子標的候補は約300種類に及ぶ。また、昨年度までにSHG 顕微鏡を用いて、ゲル内のコラーゲン線維をリアルタイムに直接観察、定量化できる新しいコラーゲン線維リモデリングモデルを開発している。当該研究では、このモデルを用いて、新規分子標的候補のうち、直接線維化をもたらす物質をスクリーニングし、その機能解析を動物モデルを用いて検討する予定である。今年度は、この新規コラーゲンリモデリングモデルを用いてペリオスチンの線維化への影響を明らかにした。加えて、その生体内での働きについて、レーザー脈絡膜新生血管モデルを用いて、血管新生後に起こる線維化課程を走査電顕及びSHG顕微鏡で評価している。この方法は、今後他の新規分子標的候補の機能解析に直接応用することが可能であり、今後の研究速度を上げる基板作製課程に当たると考える。また、増殖性網膜症及び黄斑円孔、網膜前膜などの患者網膜前組織をSHG顕微鏡を用いて観察し、その線維化について定量化する方法を確立しており、現在特許出願中である。この方法を用いることで、今後、新規分子標的候補の硝子体中濃度と増殖膜の定量化指標を用いて、線維化の進展過程ついて詳細に検討する事が可能である。
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今後の研究の推進方策 |
九州大学眼科と共同研究を行い、包括的遺伝子解析で明らかになった増殖網膜症特異的遺伝子群(約300遺伝子)のうちで、可溶性タンパク質を抽出し、コラーゲン線維リモデリングモデルを用いて、眼内増殖膜形成への影響を調べる予定である。また、現在ペリオスチンで既に用いられているレーザー脈絡膜新生血管モデルを用いて、そのタンパクの新生血管及びその後に起こる線維化への影響を観察・評価する。また、これまで他のタンパクに先行して、ペリオスチンの機能解析は動物実験レベルで既に行われており、眼内線維化に働くことを明らかにしている。今後はこのタンパクに対する治療方法の確立を行う予定であり、共同研究者である九州大学眼科吉田講師・石橋教授班では、ボナック社と協力して、新しい核酸医薬を作製している。今後この核酸医薬の臨床応用を目指すに当たり、当該研究で既に確立したヒト網膜色素上皮細胞を用いたコラーゲンリモデリングモデル及びSHG顕微鏡を用いた患者増殖膜サンプルの線維化観察方法及び定量化方法はそれら薬剤の治療効果を評価する指標として充分用いることが可能と思われる。 これらについても並行して行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
当該研究は九州大学眼科及び大阪大学基礎工学科との共同研究で成り立っており、分担研究者の研究費は分担研究者に管理を一任しているために、繰越金(今年度約10万円強)が発生する可能性は否定できない。また、前年度までに得られた知見を昨年10月に学術雑誌へ論文投稿を行っており、本年1月に査読結果を得て、その掲載料として約25万円を予定していた。しかしながら、今年度中の執行は困難となり、そのために繰越金が発生している。この繰越金については次年度の論文掲載料として引き続き使用予定である。
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