研究課題/領域番号 |
24592692
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
齋藤 武 千葉大学, 医学部附属病院, 講師 (20406044)
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研究分担者 |
幡野 雅彦 千葉大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (20208523)
吉田 英生 千葉大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (60210712)
光永 哲也 千葉大学, 医学部附属病院, 助教 (80375774)
坂本 明美 千葉大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (90359597)
中田 光政 千葉大学, 医学部附属病院, 助教 (90375775)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 制御性T細胞 / 免疫学 / 炎症制御 / サイトカイン |
研究概要 |
平成24年度は、患者の手術検体と末梢血検体を用いて、制御性T細胞(Treg)細胞の肝組織における局在と発現量、末血におけるfrequencyを把握し、抗原提示細胞やエフェクターT細胞との相互関係を検討することを目指した。手術検体については、当科では2000年より胆道閉鎖症(Biliary Atresia: BA)を17例、コントロール群である先天性胆道拡張症(Congenital Bile Duct Dilatation: CBD)を39例経験し、病理部にそれら組織を保存している。平成24年度はこのうちBA 2検体とCBD 4検体の肝組織を、また末梢血検体については新規BA 1検体、CBD 2検体を用い、安定した実験系の確立を目指した。Tregの表面マーカーとしてCD4+CD25+FoxP3、Tregの標的細胞であるヘルパーT細胞、細胞障害性T細胞、樹状細胞は各CD4+CD25-, CD8+FoxP3-, CD123+などを特異的マーカーとした。肝組織中におけるTregの発現頻度はBAで10細胞±4/視野、コントロール群で12細胞±6/視野程度であり現時点では肝組織中の発現頻度に有意差はみられていない。一方BAのTreg細胞に近接してCD8+FoxP3-, CD123+などのエフェクター細胞が集中し、かつそれらは胆管上皮細胞に近接する傾向が認められている。この所見からは、Tregの頻度はコントロール群と相違ないものの、その機能が低下し局所の炎症が抑えられていない可能性が指摘できる。これと並行して、FACSを駆使し、末血中のTregのfrequencyを検索中である。いまだ実験系が安定していないが、その発現頻度は成人コントロール症例に比し少なめで5-6%であり、BA群とコントロール群に有意差を認めていない。次年度は実験系を安定させ症例数を増やしてゆく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
肝組織中のTreg細胞、そのエフェクター細胞(ヘルパーT細胞、細胞障害性T細胞、樹状細胞)の各々は、特異的抗体(順にCD4+CD25+FoxP3, CD4+CD25-, CD8+FoxP3-, CD123+)を決定し、そのpopulationと局在を確認できる状況になりつつある。症例数を増やし、さらに精度をあげて、BAの手術日齢や肝線維化の進行度との関係を探索する予定である。一方、上記免疫細胞同士もしくは肝構成要素である肝細胞、胆管上皮細胞および星細胞などとの相互関係は、二重もしくは多重免疫組織学的染色を駆使し検討してゆく必要がある。Treg細胞, ヘルパーT細胞、細胞障害性T細胞を染め分け、各細胞の局在を検討することを試みているが、技術的困難があり、現在各細胞の判別をより可能とする特異抗体を検索中である。 また免疫細胞と肝構成細胞の動向に深く関与するサイトカインの発現レベルについても検索を開始した。当面はTreg細胞とTh17細胞の増殖・分化、もしくは抑制にかかわるサイトカインに着目する。Treg細胞とTh17 細胞両者の分化にTGF-βが必須とされる。一方Treg細胞への分化を促進・抑制するサイトカインとして各々IL-2・IL-6 が知られ、これらはTh17細胞への分化に対しては各々抑制・促進に働く。さらに活性化したTreg細胞はTGF-β・IL-10を、Th17細胞はIL-17A/F・IL-21・IL-22を産生する。これら8種類のcytokineに焦点をあて、肝組織におけるmRNA発現量をreal-time PCRを駆使し分析してゆく方針である。現在、各サイトカインのprimerを作成・注文しているところであり実験系の詳細をつめている段階である。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の実験に引き続き、患者手術検体を用いて、Treg細胞の肝組織における局在と発現量を把握する。またTh17細胞の局在の検索にも傾注し、Treg細胞やエフェクターT細胞との関連を検討する。Th17細胞のマーカーとしてCD4+RORγtを用いるが、RORγtはnaive T 細胞がTh17細胞に分化する際発現する転写因子であり、その特異抗体は広く用いられている。さらにFlowcytometryを用い、肝組織・末血におけるTreg細胞のfrequencyを、BA群とcontrol群の症例数をさらに増やし検討する。 加えて、今後Treg細胞の機能をproliferation assayにてin vitroで検討する予定である。当科および関連病院における新規BA発生は年間5件程度と予想され、貴重な検体を有効に用いるため、prolifaration assayの手順・方法に習熟しておく必要がある。そのためcontrol検体を用い、末血からTreg細胞をsortingし、それに引き続いて本assayを試み、BA患者発生時 実験遂行に支障がないようにしておく。また平成26年度に予定している本実験に備え、BAの全血よりficollを使って末血単核球成分を分離し凍結保存しておく。最終的に本assayで用いるTreg細胞(CD4+CD25+)とCD4+CD25-細胞はビーズを用いて分離する予定である。本実験の手順の詳細は、B 型肝炎患者の血液・肝組織よりCD4+CD25+Treg細胞を採取した論文を参考とし(J Immunol 2006;177:739)、免疫学を専門とする研究分担者の支援を得ながら実験を行ってゆく。
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次年度の研究費の使用計画 |
肝組織におけるTreg細胞・Th17細胞の増殖・分化およびその抑制に関連するサイトカイン(TGF-β・IL-2・IL-6・IL-10・IL-17A/F・IL-21・IL-22など)のmRNA発現レベルをreal-time PCR法で検索することは本実験では必須となる。しかし、①Treg細胞の肝・末血におけるpopulationおよび各免疫細胞の肝における局在の検討に時間がかかっていること、②検討を予定しているサイトカインの数が比較的多いこと、などの理由から現時点で上記サイトカインの至適プライマーがまだ作成できていない。また研究結果および進展具合によっては、Th1系サイトカインであるIL-12・IFNgammaやTh2系サイトカインであるIL-4・IL-5などの肝における局在やmRNA発現レベルを調べる必要が生じる可能性がある。したがって、今後のprimer作成と合成、PCR試薬の購入、免疫染色で用いる特異抗体の購入などに相当コストがかかると予想される。さらに上記サイトカインのmRNA発現レベルの検索にて、Treg/Th17細胞の増殖・分化およびその抑制に中心的な役割を果たすサイトカインに着目し、肝組織におけるその局在を検討する予定であるが、その際は染色に用いる特異抗体が必要となる。上記諸点を考慮し、必要物品を購入するコストを見越して、研究費の一部を次年度に持ち越すこととした。
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