研究概要 |
レチノイン酸(retinoic acid ; RA)の不活化酵素であるCyp26b1遺伝子欠損(Cyp26b1-KO)マウスは全身に様々な異常を呈するが皮膚では毛包形成不全が認められる。RAは発生段階における毛包誘導に必須であると判明したが、Cyp26b1-KOマウスが生直後致死のため生後の役割は不明であった。毛包はバルジに存在する幹細胞が皮膚再生に重要であり、また毛の再生自体も広く治療の需要がある。 本研究ではCyp26b1-KO皮膚のヌードマウスへの移植およびCyp26b1-conditional KO(CKO)を使用した皮膚特異的KOマウスを用いて、RAが毛の発生誘導と維持にいかに関わるかを解析した。胎生175日の皮膚をヌードマウス背部に移植すると、毛包の欠如していたCyp26b1-KO皮膚に発毛が誘導され表皮形態も正常に近づいた。毛質の変化に関しては、通常のマウスではzigzag、awl、guardの各タイプがありzigzagが80%を占めている,移植後のCyp26b1-KOではzigzagが有意に減少しており、毛乳頭での毛質を決定する遺伝子群(Sox18, IGFBP3, Krox20, IGF1など)に変化を来たしたものと示唆された。また、Cyp26b1-CKO皮膚を作成するためのCreマウスに関しては、間葉特異的Cre(En1、Hoxb6、Prx1)を順次交配させた。En1Cre-CKO皮膚は、表皮形態に異常はないか発毛誘導が遅れ毛質や毛流にも乱れが認められた。本マウスは長期生存可能なので毛周期の観察、また移植実験と同様の毛包幹細胞に注目した実験や毛質関連遺伝子の発現変化を見るためのモデル動物として有用であると思われた。
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