研究実績の概要 |
我々は、本研究において新しい自己集合成ペプチドゲルを用いて3次元全層培養皮膚の作成を試みたが、強度的に伸展培養が困難であった。そこで、1型コーラーゲンゲルを用いる方法に変更することで強度が安定し、世界初の3次元全層培養皮膚ストレッチシステムを構築することに成功した。これを用いて、伸展刺激を加えた皮膚を解析したところ、伸展刺激を加えなかった皮膚に比べ、表皮層の厚みが増し、基底膜構成タンパクであるLaminin 5, Collagen IV/ VIIの合成および基底層への沈着が増加していた。また、電子顕微鏡による観察では基底層におけるヘミデスモゾーム及びlamina densaが増加する所見が得られた。今回の実験において、3次元全層培養皮膚に伸展刺激を加えることで、真皮層表面に接着している表皮基底細胞に刺激が伝わり、接着能が上昇するとともに細胞増殖及びタンパク合成が促進され、同時に皮膚線維芽細胞にも周囲のコラーゲン線維を介して刺激が伝達され、タンパク合成及びプロテアーゼ阻害物質の分泌が促進されたと推測される。その結果、基底層におけるLaminin 5, Collagen IV/ VIIの沈着が増加し、より正常に近い基底膜構造となることで、更に表皮角化細胞の分化増殖が促進され、表皮角化層の厚みが増加したのではないかと考えられた。今回、目的の1つであった自己集合性ペプチドゲルを用いた3次元全層培養皮膚の作成は達成できなかったが、新しいストレッチシステムを構築することで、従来では不可能であった伸展刺激が表皮細胞の重層化、角化及ぼす影響や、基底膜に及ぼす影響の解析を行うことが可能となった。
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