研究課題/領域番号 |
24592720
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
林 礼人 順天堂大学, 医学部, 准教授 (10365645)
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研究分担者 |
水野 博司 順天堂大学, 医学部, 教授 (80343606)
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キーワード | 端側神経縫合 / 神経移植 / 神経再生 / Schwann細胞 / 人工神経 |
研究概要 |
今回シュワン細胞が蛍光発色するS100-GFP mouse を利用し、独自の端側神経縫合モデルを用いて、シュワン細胞が端側神経縫合を通して無細胞化した移植神経内どの程度遊走しえるか、そしてシュワン細胞を満たした無細胞化移植神経を移植する事で軸索再生を促し長い距離の軸索再生が可能かを検証する計画をたてた。 ① 我々が以前報告したDonor 神経の全く無損傷な端側神経接合群、②Donor 神経の神経上膜開窓を行う群、③Donor 神経の上膜開窓神経線維部分切断を行う群の3群を作成した。 S100GFPマウスでは、シュワン細胞の移植神経内への遊走を評価出来るが、マクロファージもGFP発色してしまう為、Liveやwhole mount といったトランスジェニックマウス特有のImaging技術で直接的に評価することに非常に苦労し、固定標本での形態評価で最終的な判断が必要な状況であった。シュワン細胞の遊走距離は無損傷な端側神経縫合群では平均2131±414µm、上膜開窓を行った群では4721±1478µm、上膜開窓及び神経線維部分切断群では5160±810µmであった。つまりシュワン細胞の効果的な遊走には、神経上膜の開窓は最低限必要と考えられ、軸索損傷を加えることで、より遠位への遊走が可能であると考えられた。しかし、マクロファージとシュワン細胞の関係性については縫合部周囲への特徴的な集積はどの群においても認めず、全体的なGFP発色の差異に与える影響は形態学的評価から少ないと考えられた。 今後は、片端と両側の端側神経縫合モデルのグループを追加作成することで、シュワン細胞の遊走距離や早さ、遊走シュワン細胞の性質などを比較したいと考えています。また、移植神経を2本繋げるモデルも作ることで、縫合部が遊走に与える影響や距離の限界についても検討し評価を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
実験計画で遂行予定であったシュワン細胞の遊走に適した端側神経縫合に関しては、神経上膜の開窓が最低限必要であり、軸索に部分損傷を加えることでより遠位への遊走が可能であると考えられた。しかし、課題としてはシュワン細胞の遊走数、遊走距離が当初想定していたほどにはみられなかった事、そして、最も大きな問題と考えられたのは、S100GFPマウスではGFPがシュワン細胞と共にマクロファージでも発現している為に、SCの遊走をGFPのLiveやwhole mount といったImagingで評価することに非常に苦労し、主観的な形態評価で判断せざるを得ない状況であった。 その為、シュワン細胞のみがGFP発色するトランスジェニックマウスが必要と考えられ、それを可能とするものに、Nestin GFP miceが挙げられる。これは、神経幹細胞のマーカーであるネスチンのプロモーターにGFPを発現させたマウスで、幼若化したproliferatingシュワン細胞がGFP発色するとされている。アメリカでマウスを保持していた研究者が引退し、入手が不可能と思われていたが、再度様々な角度から調べていたところ、東大の細胞分子生物学講座の先生が保有されていることが分かり、その先生のご厚意で今年1月に譲り受けることができた。そこで、現在そのマウスの繁殖をおこないつつ、S100GFPマウスで発現していたマクロファージの影響を比較検証している。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は最終年であり、片端と両側の端側神経縫合モデルのグループを作成することで、シュワン細胞の遊走距離や早さ、遊走シュワン細胞の性質などを比較したいと考えている。また、移植神経を2本繋げるモデルで、縫合部が遊走に与える影響や距離の限界についても検討する。 ①無細胞化移植神経を縫合せずにDonor神経の横に留置するコントロール群、②Donor 神経の全く無損傷な端側神経接合群の片端端側神経縫合するモデル③Donor 神経の上膜開窓神経線維部分切断を行う片端端側神経縫合するモデル、④両端をDonor 神経の上膜開窓神経線維部分切断を行う両側端端側神経縫合モデル、⑤④のモデルの移植神経を端端縫合し長い移植神経とし両側端側神経縫合モデルの5グループを作成する。 移植神経部は移植から7日毎に開創し、蛍光実体顕微鏡下で移植神経内に遊走するGFP発色するシュワン細胞を観察し、GFPの強度や範囲を測定することで、同一マウスの生体内でのシュワン細胞の遊走の早さや遊走距離などの経時変化を評価・比較する。また、採取した移植神経の横断面及び縦断面のGFP シュワン細胞を蛍光顕微鏡下で観察することで、遊走シュワン細胞の形態学的な評価を行う。さらに、神経縫合部でのシュワン細胞遊走関連シグナルを評価するため、Neuregulin やErbB 、p16INK4aについてリアルタイムPCR法を用いて定量的に評価し、縫合手技間の相違について検討を行う。 前述の群から実際にシュワン細胞の遊走に効果的であった縫合方法を用いてThy1-YFP16マウスにおける5mmの坐骨神経欠損部へ、シュワン細胞を遊走させた神経を移植する。Live imaging にて7日毎の再生神経の様子を観察するとともに、シュワン細胞を充填していない無細胞化神経とも比較し、移植神経中央での再生神経の形態学的評価を光学顕微鏡下で行い軸索再生について比較検討をする。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度にも実験の継続を行っていく必要があるが、トランスジェニックマウスの繁殖・維持が必要でそれにかかる経費、実験を遂行するために必要な試薬や抗体の費用、さらにその成果を報告するために参加する学会参加費や旅費などが必要となる。 次年度の研究費予算は80万で、研究運用費としては40万を予定している。その内訳としては、トランスジェニックマウスの繁殖や飼育代に10万、薬品・試薬・抗体類・備品の追加購入に10万、免疫染色や共焦点レーザー顕微鏡などの標本作成費に10万、モデル作成時の神経縫合に必要なマイクロ縫合糸の購入に10万の計40万を消耗品費として予定している。 そして、当研究内容の成果に関しては適宜学会での経過報告を予定しており、そのための学会への参加費や、また同じ末梢神経再生分野での更なる新しい知見を深めていくため、国内外の形成外科学会の基礎学会や末梢神経関連の学会への参加を予定しておりその旅費や通信費に残りの予算の40万の使用を予定している。
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