研究課題
基盤研究(C)
重症敗血症・敗血症性ショックは多臓器不全を惹起し死に至る重篤な病態である。このような患者ではhypermetabolic hyperdynamic stateが持続するが、最後には心機能を維持することが困難となり死亡する。重症敗血症患者では、早期から、感染巣のコントロール・抗菌化学療法・輸液・循環作動薬投与・人工呼吸などの標準的治療が開始されるが、インスリン投与による血糖管理もまた重要な治療となっている。申請者らは、インスリンやグルコースの血中濃度とは独立して、心筋グルコース代謝亢進そのものが急性期重症患者の心機能維持に大きく貢献すると仮説を立てた。この仮説をin vivoで証明するために、fatty acid binding protein 4 (FABP4)とFABP5のダブルノックアウト(DKO)マウスを用いた。このマウスは、毛細血管を介した脂肪酸輸送が障害され、脂肪酸の取り込みが野生型の60%に減少し、グルコースの取り込みが18倍に上昇するマウスモデルである。リポポリサッカライド(LPS)の腹腔内投与(14mg/kg)によるショックモデルを作成すると、DKOマウスの生命予後は野生型に比べて著明に改善し、腹腔内投与後24時間時点での心機能(心エコーで評価)も、コントロールマウスに比較して、良好に維持されていた。LPS投与後24時間時点での血糖値は両群間で有意差を認めず、炎症性サイトカイン(TNF-alpha, MCP1, IL-1beta, IL-6)も違いは見られなかった。以上より、血中のインスリンやグルコース濃度とは独立して、心臓の糖代謝亢進が重症敗血症時の心機能維持に大きく貢献するものと推察している。
3: やや遅れている
実験のために多くのノックアウトマウスを使用する必要があるが、FABP4/5ダブルノックアウトマウスは交配効率が低く、多くの仔マウスを得にくい。また、仔マウスが生まれた場合でも、親マウスが食殺するケースが多く、十分なマウスを確保できなかった。最近、妊娠を確認した時点で、母マウス1匹を小ケージに移し、食殺の可能性の低下を目指している。また、ケージ内に置くだけの簡易型巣箱(Shpephard Shack)を使用開始してから、妊娠効率が上昇し、食殺行為が減少してきている。
LPSおよびTNF-alphaがFABP4/5DKOマウスとコントロールマウス由来の単離心筋培養の収縮能・拡張能とグルコース代謝・脂肪酸代謝に影響を及ぼすか、比較検討する。次に、FABP4/5 DKOマウスモデルに、より生理的なモデルであるCLP(cecum ligation and puncture)を作成し、生命予後、心機能、血中グルコース・インスリンレベルを中心に野生型マウスと比較検討する。上記が終了したのち、FAT/CD36(fatty acid translocase)ノックアウトマウスを用いて同様の実験を実施する。FAT/CD36ノックアウトマウスも脂肪酸代謝が障害され、心筋の糖代謝が著しく亢進するマウスモデルである。これら二つのノックアウトマウスを使用することで、心筋の糖代謝亢進が重症敗血症時の心機能維持に大きく貢献することをより一般化する。
申請した実験を実施するために多数のマウスの飼育・繁殖が必要であり食餌・光熱費などの維持費が必要である。モデルマウス作成のためにLPSを大量に使用する。免疫染色のために抗体と免疫染色キット(ABCキット)を使用する。アイソトープは日本メジフィジクス・パーキンエルマーより購入する。グルコースは簡易測定キット、インスリン・iNOS・PAI-1はELISAキット、サイトカインはCytometric bead array (CBA) で測定する。心筋培養のために、コラゲナーゼ、トリプシン、培養液、血清、細胞用ディッシュが必要である。
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