研究課題/領域番号 |
24592746
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
藤原 俊朗 岩手医科大学, 医学部, 助教 (60405842)
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研究分担者 |
別府 高明 岩手医科大学, 医学部, 准教授 (70275543)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 一酸化炭素中毒 / 脳循環代謝 / MRI / 拡散強調 / 拡散テンソル / MRS |
研究概要 |
本研究では一酸化炭素中毒(CO中毒)予後予測を目的とし、完全無侵襲による脳循環代謝測定法の開発を目指してきた。初年度は、ファントム実験による温度計測精度測定を実施する予定であったが、1)使用予定であった研究機3 Tesla MRI(3TMRI)が修理不可、2)健常者の測定実験によって脳温精度が推定可能であったことから、ファントム実験は行わず、本年度並行して実施予定であった患者撮像を、新たに導入された臨床機3TMRIにて2週目にのみ撮像することとした。 今年度までに取得したすべての健常者、患者の半卵円中心におけるmagnetic resonance spectroscopy(MRS)データについて解析を進めた。その結果、MRSで計測したCO中毒患者脳温は、健常者と有意に異なることが明らかとなった。特に、CO中毒後、重篤な症状を来さない患者における脳温は、重症化する患者に比べて、脳循環代謝異常を示す特異的な値を示し、CO中毒患者の予後を予測する上で重要な所見が得られた。また、当初次年度に予定していた拡散テンソルイメージング(DTI)をMRS撮像と同時に実施し、CO中毒患者における半卵円中心の白質障害をDTIのfractional anisotropy(FA)にて評価した。その結果、DTIのFAとMRS脳温が相関することが明らかとなり、白質障害の程度が少ない場合であっても脳循環代謝障害が存在している可能性が示唆された。現在この結果について論文投稿を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の予定では、初年度は主としてファントム実験にて計測精度を明らかにしたのち、ヒトでのMRS計測結果を解析する予定であったが、装置の不具合によってファントム実験を中止とし、健常者および患者のMRIデータ取得中心に切り替えることとなった。しかし、3TMRIでの計測精度が良好であったことから、ヒトでの計測だけでも十分有用なデータが得られ、当初の目的であった完全非侵襲脳循環代謝測定法の開発に向け重要である下記について初年度のうちに明らかにすることができた。 1)CO中毒後2週目の患者の脳温は、健常者と明らかに異なる。 2)CO中毒後重篤な症状を呈さない患者では、重篤な症状を呈する患者に比べ、2週目の脳温が特異的な所見を示す。 また、次年度に別途予定していたDTIデータもすでに取得済みであり、CO中毒患者の半卵円中心における白質障害が脳温と相関することも新たな知見として得ることができた。一方で、研究機3TMRIに隣接した施設において撮像を予定していたpositron emission tomography(PET)や病院内でのsingle-photon emission tomography(SPECT)は、患者の状態等により実施できなかった。しかし、当施設で以前撮像された慢性脳虚血患者におけるMRS脳温はoxygen extraction fraction(OEF)等と相関することが明らかとなっていることから、今回得られたCO中毒患者におけるMRS脳温も同様の意味を表していると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度に撮像を予定していたDTIデータはすでに初年度に取得できたことから、次年度はまず下記を実施する。 1)DTIデータからmean diffusivity(MD)マップを作成し、DTIと同時に撮像された半卵円中心(脳実質)を興味領域とするMRSから算出される脳温と、同断面でMDマップから算出されたCSF温度マップとの相関を確認する。 次に、当初撮像を予定していた研究機3TMRIが修理不可であることから、臨床機3TMRIでの患者撮像以外についての実験は、新たな研究装置による実験系が必要となる。また、初年度のヒトによる計測結果から、ファントムではなく生体を用い、拡散強調像(diffusion weighted imaging: DWI)計測実験によって脳温メカニズムを明らかにする必要があると考えた。以上のことから、次年度以降は下記を検討している。 1)動物用超高磁場MRI(7~17.2T)を用いて、温度を変えた造影剤または生理食塩水を静注したサルまたはラットのDWIを実施する。 2)ヒト用超高磁場MRI(3Tまたは7T)を用いて、健常者を対象としたDWIを実施する。 上記で用いるDWIは、これまで臨床で簡易的に用いられた2つのb value(b=0, 1000等)での撮像ではなく、複数のb value(b=0~3000等)から算出される本来の計測精度を重視したDWIとする。また、b valueはその値の大きさによって、灌流と生体内拡散が混在する(低値:灌流+拡散、高値:拡散)ことから、温度に最も影響されるb valueも明らかにする。また脳内の解剖構造おける温度変化が、どの拡散パラメータに最も影響を与えるかを明らかにするために、取得可能な拡散パラメータすべての全脳マップを作成する。動物用MRIは、共同研究先であるフランス原子力庁MRI研究センターNeurospinのものを利用する。
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次年度の研究費の使用計画 |
1)複数のb valueを用いたDWIから拡散パラメータを算出する場合、曲線当てはめ近似(curve fitting)による未知パラメータ推定が必要となる。現在、拡散パラメータを推定するDWI信号モデルは未知数が5~6個であり、未知数以上のb value数によるDWIが必要となるが、臨床応用を考慮した場合、b valueは8個程度となる。未知数推定のためのcurve fittingでは、一般に広く用いられているLevenberg-Marquardtアルゴリズムを用いるが、256×256の解像度をもつ画像1枚だと65536ピクセルすべてについて1ピクセルごとにcurve fitting計算が必要となる。全脳マップを作成する場合、大規模計算が必要となることから、さらなる高性能ワークステーションが必要となる(40万円)。 2)取得された大規模画像データを保存するためのサーバならびにデータストレージが必要となる(20万円)。 3)論文校正料が必要となる(40万円)。 4)画像確認、論文印刷のためインク等が必要となる(10万円)。 5)データ受け渡しのためのUSBメモリ類が必要となる(10万円)。
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