研究課題
本年度は、昨年度の研究推進方策に沿って、一酸化炭素中毒患者10例の半卵円中心(脳実質)を興味領域とするMRSから算出される脳温と、同断面の脳脊髄液(CSF)を興味領域内の平均拡散係数(MD)値から算出される脳温との相関について確認した。その結果、症例数が少ないため予備的な結果ではあるが、有意な相関はみられなかった。これは、症例数以外に、MD値の温度変化に対する感度の低さ(1℃の変化に対してMD値2~3%程度の上昇)に加え、撮像データ(b値の数)不足によるMD値の精度低下によるものと考えられた。そのため、本年度は、共同研究先であるフランス原子力庁サクレー支所Neurospin研究所にて動物用超高磁場MRI17.2TMRI装置でラット撮像を実施し、解析精度を検証するソフトウェアを開発した。本ソフトウェアを用いて、これまでに提案された代表的な3つのDWI信号モデル(mono-exponential、bi-exponential、kurtosis)を同一ラットデータにて比較したところ、mono-exponentialは他の2つのモデルに比べ、MD値を過少評価する可能性があることが明らかとなった。当初、温度を変更した造影剤、または生理食塩水を静注してラット撮像を実施する予定であったが、これらの特殊な状況下での実験前に、MD値を算出する解析モデルの検証を行う必要性があることが明らかとなった。そのため、本年度は生理食塩水の静注などをせず、通常の状態でのラット撮像をさらに実施した。今回は、motion probing gradient(MPG)の軸数を変更して撮像を実施した。内訳は、1軸(n=4)、3軸(n=3)、6軸(n=1)とし、6軸については拡散テンソル解析も行った。その結果、得られたすべての拡散パラメータマップ上にて、mono-exponentialモデルとそれ以外のモデルとの相違が定性的に確認できた。これらの結果については学会発表を行う予定である(2014年4月19日)。
2: おおむね順調に進展している
一酸化炭素中毒患者の脳温計測では、DTIとMRSでの結果に有意な相関がみられなかったが、その原因の一つと考えられるDWI信号解析モデルの影響について、動物実験にて明らかにすることができたため。また、異なるDWI信号モデルで得られるマップについて比較可能なソフトウェアを開発できたため。
最終年度は、これまでに取得した残りの一酸化炭素中毒患者データの再解析を実施し、DWI信号モデル以外の影響についても再度検討する。また、共同研究先であるNeurospinにてラットの撮像実験を継続し、DWI信号モデルのMD値への影響についての解析結果をまとめる。さらに、開発したソフトウェア上にて、高精度なMD値を用いた脳温算出処理を実装し、臨床応用に向けたインタフェースの実装も行う。
これまで取得した患者データの解析結果から、特別な造影剤や生理食塩水での実験前に解析方法の検証を行う必要があることがわかり、動物実験で用いる試薬や材料費が不要となったため。また、成果発表等を行わなかったため。最終年度は、さらなるラット撮像実験のために共同研究施設へ訪問する際の旅費と、得られた成果に関する国内外での学会発表の旅費を中心に使用する。また、成果発表のためのポスター作製や投稿論文校閲などの費用にも使用する予定である。
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Mol Imaging Biol
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