研究課題/領域番号 |
24592749
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
緒方 寿夫 慶應義塾大学, 医学部, 講師(非常勤) (90214006)
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研究分担者 |
清水 雄介 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (10327570)
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キーワード | 骨折 / シミュレーション / バイオメカニクス / 頬骨 |
研究概要 |
頬骨骨折は形成外科の臨床において高頻度に見られる外傷類型であるが、解明されていない部分も多い。なかでも術後の後戻りの問題については、従来においては深く研究がすすめられていなかった。骨折を受傷することによって頬骨はあるべき位置から変位する。これに対し、変位した頬骨を元の位置に整復し、その位置で固定する治療が通常行われる。しかしそうした手術治療を行っても、手術後数か月間を経過するうちに、正しい位置に固定したはずの頬骨が次第にずれてくる状況が往々にして発生する。この後戻り現象が発生すると、当然ながら患者の整容的満足度は低下する。したがって、どのような状況下においてこの後戻り現象が発生しやすいのかを解明することが必要であり、本研究はこの解明を目的として立案された。研究手法としては、頬骨骨折を伴う頭蓋骨有限要素モデルをまず作成し、「後戻り力」を負荷した上で解析を行い、骨折のパターンごとに、どのような後戻りの仕方を起こしやすいのかを評価する計画を立てた。このうち平成24年度においては頬骨骨折を伴う頭蓋有限要素モデルを作成する技術を確立した。平成25年度においては、後戻り力を数値化する技術の開発に取り組んだ。そして「頬骨の各点に作用する後戻り力の方向は、骨折によってその点が変位したベクトルと平行である」「後戻り力の大きさは、変位ベクトルの大きさに比例する」という二つの仮説に立脚したうえで、個別の症例において観血整復固定後に作用することが予測される後戻り力の定量化に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度においては、頬骨の観血的整復固定後に作用する後戻り力を定量化することに成功した。この技術の確立がゆえに、特定の臨床症例における術前の3次元CT情報に基づき、その症例においては手術を行ったあとにどの方向にどの程度、固定した頬骨が再びずれて行きやすいのかについて大方の予測評価を行うことが可能になった。さらに、これら一連の技術を用いて過去の臨床症例の評価を行った結果、「たとえ同じ類型に属する頬骨骨折であり、全く同じ固定方法を用いて固定を行ったとしても、術前における骨の変位の状態が異なる場合には、長期成績も異なりうる」という命題につき、理論的に証明を行うことができた。本研究の成果はJournal of Plastic Surgery and Hand Surgeryに発表された(Nagasao T, Itamiya M, Shimizu Y, Ogata H, Kishi K. Not Only “Nurture”, but also “Nature” Influences the Results of Zygoma Repair)。また本研究に対して平成25年度の日本形成外科学会学術奨励賞が授与されている。研究当初の計画としては第二年次である平成25年度までに、後戻り力を定量化することを目的としており、この目的に到達を果たしたので、研究の進行状況緒は順当であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、頬骨の固定整復を行ったあとにいかなる後戻りが生じるのか、という命題を解明するために計画された。この命題を解明する基本的な路線は過去2年間一貫してきたが、第3年次である平成26年度も同じ路線を維持する予定である。ただし、より多くの固定法につき後戻りの傾向を論じることにする。すなわち平成25年度までには、前頭骨―頬骨接合部において固定を行った後に生じる後戻りのみについて検証を行ってきた。しかし実際の臨床においては同部位以外に、頬骨―上顎骨接合部 ならびに眼窩下縁における固定も頻繁に行われる。そこで平成26年度以後は、これらの部位において変位した頬骨をプレート固定した場合には、どのような傾向の後戻りが生じやすいのかに関して検証を行い、より有用な臨床的情報を提供する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度の研究予算で110万円程度の繰越金が生じた。これは、本年度に実施した内容は、コンピューターシミュレーションの技術開発を主体としたためである。この段階は実験消耗品費などの負担が少ない。また、本来は外部委託する予定であった解析プログラム作成を研究者自身で行ったため、資金的な負担が減少したことも原因である。すなわち未使用額の発生は効率的な物品調達を行った結果であり、次年度の研究費と合わせて物品購入に充てる予定である。シミュレーションの結果に妥当性があるか否かの検証は、合成樹脂で作成した実体モデルを用いて行うが、このモデル作成ならびに実験機器には相当額の出費が予測される。繰り越し分はこれら物品の購入に充てる予定である。 頬骨骨折を伴う頭蓋実態モデルを作成し、これに対する実際的打撃試験を行うことにより、コンピューターシミュレーションの妥当性を検証する予定である。
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