突然の心停止による脳障害は蘇生後の患者が社会復帰できるかに関わる重大な問題である。心機能が回復しても意識の改善がみられない症例が多く、治療法の確立が望まれる。心停止蘇生後の低体温療法により脳機能の改善が証明されたが、未だ一部の症例での有効性が確立されているのみであり新たな治療法が必要とされている。 心停止中に低体温が導入すれば更なる脳機能の改善が期待できると報告されている。心停止は血流が緩徐になるため肺冷却で血液が冷却できる可能性が示唆されており、心停止中の低体温療法を導入できる可能性がある。今回本研究では肺を冷却するため投与する酸素を冷却する装置を考案した。装置開発で酸素加湿器や透析装置を利用したが十分な酸素冷却はできなかった。輸血の加温に使用するコイルは熱交換効率がよいことが予測されたため、そのコイルを水に浸して-80℃に冷却し酸素を通したところ酸素は0℃前後まで冷却された。この装置とMapleson D回路と組み合わせ冷却酸素を投与できる換気装置を開発することができた。 この装置の効果と安全性を確認するため健常成人による検討を行った。7名のボランティアで、この装置を装着して30分間呼吸してもらった。経過中の血圧、心拍数、末梢酸素飽和度、体温に変化は無く、マスク中の温度は低下した。1週間の経過を観察したが特に障害はみられなかった。この装置での吸入酸素を低下させる効果と、健常人での障害を起こさないという安全性は確立された。 装置の開発と健常ボランティアによる効果安全性の確認の検討を平成26年度は第42回日本救急医学会と日本蘇生学会第33回大会で報告した。また、米国での蘇生の現状を把握するためSociety of critical care medicine 44th critical care congressに参加した。今後は本研究を欧文雑誌に投稿する予定である。
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