昨年度までに,顎関節滑膜においてデスミン陽性B型表層細胞が血管新生時に出現する活性化周皮細胞に類似すること,その近傍に血管内皮細胞マーカー陽性のA型表層細胞が存在することを明らかにし,滑膜表層細胞と総称される細胞が表層への血管新生を促していると考えられた.本年度は,成熟ラットに加えて発育段階の滑膜における,これらの細胞の局在を検索した.胎生21~生後1日の関節腔形成期に滑膜表層細胞層が明瞭化すると,血管形成に先立ってデスミン陽性B型およびRECA-1陽性A型細胞が出現した.生後5日目に関節腔が完成すると,RECA-1陽性内皮細胞とデスミン陽性周皮細胞からなる毛細血管が滑膜表層に形成され,発育に伴って,デスミンあるいはRECA-1陽性表層細胞を近傍に伴う血管が増加していった.つまり,滑膜形成期の血管形成には表層細胞が何らかの役割を担う可能性が示唆された.一方,成熟ラットにおいて,機能血管を標識するトマトレクチンと,管腔形成以前の新生端に発芽した内皮細胞も標識するRECA-1との二重染色により,滑膜表層にRECA-1のみ陽性を示す細胞が存在したので,引き続きトマトレクチンを静脈内投与し,昨年度の結果から得た,滑膜血管分布が最も明瞭に観察できる条件で標本作製し,共焦点レーザー顕微鏡にて観察した.デスミン標識も併用したところ,機能血管の先端にはRECA-1陽性A型細胞とデスミン陽性B型細胞が近接して存在していた.また,血管新生時の出芽端にはtip cellとよばれる特別な内皮細胞が現れ,tip cell同士をマクロファージが引き寄せて管腔を形成するといわれている.tip cellのマーカーであるNineinとの二重標識により,滑膜表層の機能血管端にNinein陽性反応が認められた.本結果より,デスミンあるいはRECA-1陽性を示した一部の滑膜表層細胞が,それぞれ活性化周皮細胞,tip cellあるいはマクロファージの役割を担い,血管新生へ関与している可能性が示唆された.
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