研究実績の概要 |
三叉神経系における小胞性アミノ酸輸送体は本来中枢神経系においてシナプスの位置する部位に存在し、神経伝達物質であるアミノ酸をシナプス小胞へ輸送する作用をもつ。しかし近年の研究により、シナプス以外の部位にもこれらの物質が存在し、末梢神経系においてもなんらかの作用を発揮していることが示唆されてきた。本研究では興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸の輸送体(VGLUT)と、抑制性神経伝達物質であるGABAの輸送体(VGAT)に注目し、脳内および末梢神経系における発現の検索を行った。口腔感覚領域では歯根膜機械受容器(ルフィニ神経終末)、歯髄(自由神経終末)、口蓋粘膜の機械受容器(メルケル終末)にVGLUTが認められた。一次感覚神経は中枢における興奮性神経伝達物質としてグルタミン酸を産生するが、末梢感覚受容器においてもグルタミン酸が働いているものと考えられる。中枢の三叉神経核では感覚核である三叉神経中脳路核にはその細胞体および細胞体に投射するシナプス終末にVGULTの局在が認められた。三叉神経運動核においては運動ニューロンに投射するシナプス終末にVGLUTが認められた。これらはグルタミン酸を含む興奮性シナプス終末と考えられる。VGATについては口腔感覚をつかさどる末梢感覚神経終末では認められなかったが、三叉神経中脳路核および三叉神経運動核に投射する神経終末にはその局在が認められた。これらはGABA含有の抑制性シナプス終末と考えられる。生後発育に関する研究では、興奮性シナプスの存在を示唆する物質であるNR2A,B、さらにはシナプス後膜の肥厚に関する物質PSD95の免疫染色を、顎運動が吸啜から咀嚼へと変化する時期である生後1日から21日までの脳において観察した。三叉神経中脳路核では生後すぐから21日まで持続的に弱い反応を認めたが、三叉神経運動核では生後3~5日から発現し次第に反応が増強した。
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