研究課題/領域番号 |
24592765
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
井上 哲圭 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (20223258)
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研究分担者 |
中山 真彰 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (10579105)
大原 直也 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (70223930)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 歯周病細菌 / Porphyromonas gingivalis / 細胞感染 / 細胞内生存 / マイクロアレイ / トランスポゾン |
研究概要 |
平成24年度は、以下の項目について実施した。(1)Porphyromonas gingivalis(Pg) ATCC 33277株にトランスポゾンTn4400’による変異導入を行い、約33,500株に及ぶトランスポゾン変異株ライブラリーを作製した。Pg ATCC 33277株の遺伝子数は約2,090であり、十分な重複度(16倍)を有している。(2)Pgによる歯肉上皮株化細胞Ca9-22への感染実験プロトコールの各条件を決定した。(3)トランスポゾン変異株ライブラリー全体を培地で培養後に回収、またはそれをCa9-22細胞に感染させた後に、上記方法により細胞内生存菌を回収し、両者の菌体からDNAを調製し、マイクロアレイ解析を含めたTraSH法を実施した。感染前変異株群に対して感染後変異株群にシグナル強度が低下する遺伝子変異株を検出することにより、細胞感染に関わる候補遺伝子を見出した。マイクロアレイデータの初回解析の結果、Ca9-22細胞感染に関わる候補遺伝子を数個見出したが、これらはいずれもこれまでPg菌の細胞内生存との関わりが報告されたことのない遺伝子であった。なお現在、より詳細な分析を行っており、候補遺伝子の数は増加する見込みである。(4)Pgにおける遺伝子破壊系を確立し、TraSH法により見いだされた候補遺伝子を個々に破壊する準備が整った。一方、遺伝子破壊相補株作製用のプラスミドベクターもデザインし、現在構築中である。以上のように、平成24年度は、本研究の骨格をなすPgトランスポゾン変異株ライブラリーの作製およびそれを用いたTraSH法の実施を行うことができ、その結果として候補遺伝子を見出すところまで至ったこと、また、Pgの遺伝学的な解析手法を確立したことから、今後の研究計画の実施において交付申請書に記載した目的に到達するまでの基礎固めが完了したと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の研究目的は、結核菌においてマクロファージ細胞内生存必須遺伝子の特定に用いられたTraSH(transposon site hybridization)法をPg菌の宿主細胞内感染実験に適用することにより、Pg菌の細胞感染後の細胞内生存機構、細胞内局在化機構を解明することである。具体的には、TraSH法によりそれらの過程に関わるPg菌側の候補遺伝子群を明らかにし、それらの個々の遺伝子破壊株の作製およびその結果が細胞内生存に及ぼす影響を解析することにより、上記機構の解明に迫るという研究のスタンスである。平成24年度は、その研究の遂行において必要な各種手法の確立、実験条件の検討を行った。その中には、Pg菌の遺伝子破壊法の確立、Pg遺伝子破壊株の相補株作製用のベクターのデザインと構築など、Pgの遺伝学的解析をルーチンで行うためのツールの構築および手法の習得に加え、Pg菌の細胞感染条件およびPg菌感染細胞から細胞内生存菌回収のタイミングの検討、そして、TraSH法に使用する高純度なPg変異部位DNA調製法の確立等を含む。それに基づきTraSH法の実施を3回行い、いくつかの候補遺伝子の選別にまで至ることができた。すでに、それらの候補遺伝子の破壊株の作製に着手している。また、上記とは別に、新たにマルチコンポーネント型薬剤排出ポンプの遺伝子破壊株作製も行った。これは、他の細胞内寄生性細菌において、それらが保有する薬剤排出ポンプが細胞内生存に関わることを示唆するデータが複数の研究者により報告されていることから、Pg菌における薬剤排出ポンプの細胞内生存への影響を検討するためである。すでに6つの薬剤排出ポンプ系の遺伝子破壊株の作製は終了し、宿主細胞への感染実験に着手したところである。以上のように、研究目的に沿って、研究計画は概ね順調に進行中である。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度、TraSH法により候補遺伝子が見いだされたため、それらの細胞内生存への影響を調べることを目的として、現在、個々の候補遺伝子について遺伝子破壊株の作製に着手している。それらの遺伝子破壊株の作製が完了次第、宿主細胞への感染実験に取り掛かり、細胞侵入率および細胞内生存率に関して野生株との比較を行う予定である。また、当初の研究計画にはなかったマルチコンポーネント型薬剤排出ポンプ変異株の細胞内生存への影響についても、同様の実験を計画している。一方、遺伝子破壊株の相補株作製用のプラスミドベクターは構築中であり、相補株作製後に同様の細胞感染実験を行う。遺伝子破壊と遺伝子相補を確認するためには、RT-PCR法などによりmRNAレベルで評価する。TraSH法のマイクロアレイデータ分析は、今後はより詳細な解析を進め、その中で新たに見出された候補遺伝子についても上述のように細胞感染および細胞内生存との関わりを明らかにする。次の段階は、上記で見出された候補遺伝子がいかなるメカニズムによりPg菌の細胞感染および細胞内生存に影響を及ぼしているのかについての知見を得ることである。そのためには、細胞内にエンドサイトーシスされた後のPg菌がどのような過程を経て処理されていくのか、そして、遺伝子破壊株においてはその過程のどの部分が野生株の場合と比べて異なるのかを知る必要がある。これには、菌体を蛍光色素でラベルするとともに、細胞内のエンドソーム、リソソーム、オートファゴソームなどを別個の蛍光色素でラベルし、菌体の細胞内局在に関して、時間経過を追って、蛍光マーカーの共局在の観察により評価する。また、Rab GTPaseの関与等についても検討する予定である。これら一連の観察には本大学の医学部共同研究施設に新たに導入された共焦点レーザー顕微鏡を利用することにより高感度での検出を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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