研究課題/領域番号 |
24592765
|
研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
井上 哲圭 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (20223258)
|
研究分担者 |
中山 真彰 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (10579105)
大原 直也 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (70223930)
|
キーワード | Porphyromonas gingivalis / 歯周病細菌 / 細胞感染 / 細胞内侵入 / 細胞内生存 / 薬剤排出ポンプ / 薬剤感受性 |
研究概要 |
Porphyromonas gingivalis (Pg) ATCC 33277株のトランスポゾン変異株ライブラリーを用い、歯肉上皮細胞Ca9-22株に対してTraSH法を実施した。その結果、Pg菌のCa9-22細胞への感染に関わる候補遺伝子を見出すことに成功した。その中には、すでにPg菌の細胞感染に関連することが報告されたものも含まれていたが、これまでに報告がなかったものも複数存在し、今回それらの遺伝子破壊株の作製を試み、その性状を解析した。そのうちの一つ(x遺伝子)の遺伝子破壊株では、野生株に比べて細胞感染能が顕著に低下した。そのx遺伝子変異の相補株を作製し、x遺伝子の細胞感染能への関連性を確認しているところである。x遺伝子産物がどのようにしてPg菌の細胞感染に関わっているのかは次年度の研究課題として残された。また、これとは別にある遺伝子(y遺伝子)変異株において逆に細胞感染能が上昇することが明らかとなった。このことは、普段この遺伝子産物が細胞感染に関して抑制的に作用することを示唆するものである。一方、近年薬剤排出ポンプと細胞感染能との関連性が報告されている。Pg菌にはマルチコンポーネント型薬剤排出ポンプが6個存在する。それらの3つはプロトン駆動型のAcr型、残り3つはATP駆動型のMac型であった。それぞれの薬剤排出ポンプを構成するペリプラズム蛋白質遺伝子の破壊株(MFD変異株)を個別に作製し、薬剤感受性と細胞感染能への影響を検討した。その結果、種々の薬剤に対する感受性が上昇したMFD変異株がAcr型、Mac型のそれぞれ1株ずつに見いだされた。それらの細胞感染能については、Acr型変異株は細胞内生存率が、Mac型変異株は細胞侵入能が野生株に比べて減少していることが示唆された(第55回歯科基礎医学会および第87回日本細菌学会にて発表)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Pg菌が上皮細胞や血管内皮細胞等の宿主細胞内に侵入するという現象はこれまで複数の研究者らにより報告されてきた。そして、その細胞内で時間は限定的ではあるが生存することもわかっている。このPg菌の宿主細胞内感染に関しては、ある種のPg遺伝子が関与するという報告が散見されるが、全体像の理解には程遠く、未解明の部分が多いと考えている。本研究の目的は、結核菌においてマクロファージ細胞内生存遺伝子の特定に用いられたTraSH法を応用することにより、Pg菌の新たな細胞感染関連遺伝子とその遺伝子産物が果たしている役割を解明することである。昨年度までに実施した実験研究により、その候補遺伝子が明らかになり、それらのうちのいくつかの遺伝子については確認のための遺伝子破壊株の作製を試みた。その中で、特に興味深い遺伝子をピックアップし、現在その遺伝子産物の機能解明へと進めているところであり、非常に興味深い知見も得られつつある。その遺伝子が細胞内感染に関わることを示唆する実験データも得られ、この点は相補株を用いての確認段階にある。以上のように、Pg菌の新たな細胞感染関連分子とその機能の解明という本研究のコア的な流れについては概ね順調に進行していると考えている。一方で、このTraSH法以外にゲノム情報に基づいた逆遺伝学的なアプローチも試みており、その結果、その遺伝子産物が細胞感染を抑制すると考えられる遺伝子、細胞感染に関わると考えられる薬剤排出ポンプを構成する遺伝子等についてのデータも得られており、当初の予定にはなかったPg菌が保有する新たな細胞感染関連分子についての知見も得られつつある。これまで研究により見いだされた細胞感染関連分子が具体的にどのような仕組みで実際の細胞感染過程に関わっているのかについては、最終年度である平成26年度の研究を遂行することにより、その実像に迫りたいと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
昨年度までに歯周病細菌Porphyromonas gingivalis(Pg)の歯肉上皮細胞内感染に関わる候補遺伝子を見出し、いくつかについては変異株の作製を試みた。そのうち、特に興味深い遺伝子の1つ(x遺伝子)の破壊株では、細胞感染能が低下することを見出しており、それがいかなるメカニズムによってそうなるのかを探るのが本年度研究の1つの方向である。x遺伝子欠損相補株の作製はすでに終了し、遺伝子発現レベルと表現型の両面から実際に相補株として機能しうることを確認したので、野生株、変異株、相補株を用いた細胞感染実験を行う予定である。この際に、宿主細胞内侵入率、細胞内生存率を評価することにより、どのステップが遺伝子変異により抑制されているのかを明らかにする。また一方で、細胞感染過程において、Pg菌の菌体表層物質も密接に関連していると推察されるが、これに関しても、x遺伝子変異によりPg菌の菌体表層物質のプロファイルが変化するかどうかについて、分子レベルでの詳細な解析を計画している。以上、他の候補遺伝子についても同様に解析を行う(井上、大原担当)。また、これとは別の遺伝子変異株では、逆に細胞感染能が上昇することが示された。このことは本遺伝子が普段は細胞感染に関して抑制的に作用することを示唆しており、この変異株の性状解析も進めていく。(井上、中山担当) また、昨年度、Pg菌の複数の薬剤排出ポンプ系の遺伝子が作用機序の異なる複数の薬剤感受性に関わること、および宿主細胞内感染に関わることが示唆された。この排出系は感染の過程と感染後の宿主細胞内での薬剤からの回避という二重のメリットをもたらすことが推察される。一方で、これら複数の薬剤排出ポンプ系は相乗的に作用していることも推察され、本年度は薬剤排出ポンプ系多重変異株の作製を行い、薬剤感受性および細胞感染能の変化を検討する(井上担当)。
|