研究実績の概要 |
本研究は、唾液腺におけるHippoシグナル伝達因子の分子機能を解析し、唾液腺の管腔構造形成・維持における同経路の役割を解明する事を目的とした。まず、唾液腺におけるHippoシグナル伝達因子の発現パターン解明を目指し、胎児・成体唾液腺組織における同因子の発現をRT-PCR法、免疫染色法、in situ hybridization法により解析した結果、Tead転写因子ファミリー遺伝子は胎児と成体において発現パターンに差異が存在することが明らかとなった。また、他のHippoシグナル伝達因子についても、胎児期の唾液腺組織においては、間葉組織と上皮組織間において発現量・細胞内局在の差異が見られた。特に転写活性領域を有するYAP蛋白質の発現は上皮層に顕著に観察された。液性因子透過性の膜上において培養を継続した胎児由来唾液腺組織においても、通常の胎児期唾液腺組織と同様の発現パターンが観察された。同培養組織におけるHippoシグナル伝達因子の発現抑制を目的とし、同シグナル伝達経路の中核となる転写コアクチベーターYAP/TAZを標的として、これらのタンパク質翻訳を抑制する細胞透過型モルフォリノを設計した。同モルフォリノを唾液腺組織培養システムにおいて添加すると、唾液腺組織の成長が経時的に抑制され、YAP/TAZの機能抑制が唾液腺組織の増殖において重要な役割を持つことが示唆された。また、Hippoシグナル伝達経路において転写因子Teadと転写コアクチベーターの結合阻害因子Verteporfinを添加した際にも同様の結果が得られた。さらに、YAP/TAZタンパク質の翻訳抑制時に、Tead転写因子の標的遺伝子であるCyr61,Ankrd1の発現抑制が見られたことから、胎児期の唾液腺組織増殖において同経路が重要な役割を果たしていると考えられる。
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