研究概要 |
分泌型白血球プロテアーゼインヒビター,SLPIは粘膜系での病原微生物に対する感染防御を担う自然免疫として機能する生体因子であることが示唆されている. 我々はこれまでの研究から,歯肉上皮細胞がSLPI産生細胞の一つとして機能すること,そのSLPI産生はP. gingivalis の感染刺激を通して反応性に増強されることを明らかにした.また,SLPIがジンジパイン活性を阻害する可能性を示唆する成績を得た.本研究は,我々が発見した新規のP. gingivalis のプロテアーゼ[Glu/Asp 特異的ジペプチジルペプチダーゼ (DPP)11]を含め,SLPIによるプロテアーゼ阻害という面から,SLPIによるP. gingivalis 感染抑制作用の詳細について明らかにすることを目的とする.当初の研究実施計画に基づいて研究を実施し,本年度(H25年度)は以下の成績を得た. 1. リコンビナントマウスSLPI(rmSLPI)の発現と精製rmSLPIの調製:発現ベクターにコザック配列を追加することにより,発現効率の向上を試みた.その結果,rmSLPIは得られたが,十分量とは言えない状態なので,V5タグ付きrmSLPIの精製を引き続き行っている. 2. DPPIV, DPPV,DPP7, DPP11の作製は完了した. 3. ジンジパイン(Arg-gingipainおよびLys-gingipain),DPPIV, DPPV,DPP7, DPP11の酵素活性に対するSLPIの抑制効果について,human rSLPI(rhSLPI)を用いて検討した.その結果, 1) rhSLPI(0.5 mg/ml)はpH 7.0-8.5の条件でtrypsin活性をほぼ完全に抑制すること,2) rhSLPIはpH 7.5でArg-gingipainおよびLys-gingipainの酵素活性を抑制すること,3) 但し,SLPIのgingipain抑制効果はpH依存度が高く,また,菌体結合型gingipainに対してより有効であること,4) rhSLPIはDPPIV, DPPV,DPP7, DPP11の酵素活性に対しては有意の抑制効果は示さないこと,が強く示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
rmSLPIの調製については,当初の研究実施計画よりやや遅れていたが,発現ベクターにコザック配列を追加することにより,リコンビナントタンパク質の精製のめどが立った.一方,DPPIV, DPPV,DPP7, DPP11の作製は完了した. 「SLPIのP. gingivalis プロテアーゼ阻害特性の検討」については,rhSLPIを用いて,ジンジパイン(Arg-gingipainおよびLys-gingipain),DPPIV, DPPV,DPP7, DPP11の酵素活性に対する抑制効果について検討を行い,P. gingivalis の感染制御に関わるSLPIの効果について種々の知見を得た.
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