歯根形成期の臼歯歯胚におけるRho signalingの影響を検討するため以下の実験を行った。生後12日齢のタモキシフェン誘導型RhoA ドミナントネガティブ(DN)マウスのHertwig上皮鞘(HERS)は著しく短く、構成細胞数が減少していた。さらに器官培養系を用いてRho signalingの機能獲得・喪失実験を行った結果、Inhibitorを添加された臼歯(I群)のHERSは多層化して長さも短く、歯根長も短くなっており、DNマウスの結果に類似していた。activatorを添加された臼歯(A群)の歯根はほぼ正常な長さまで発達し、HERSも伸長したが、歯根象牙質上に伸びたHERSに断裂は見られず長く連なっていた。Rho siganalingは特にHERSの細胞増殖や断裂の調節に関わり、結果として歯根伸長にも影響を及ぼすことが示唆された。このA群で観察は上皮間葉転換(EMT)の誘導に関わるTGF-βを阻害したHERSにみられた現象と類似しており、細胞遊走との関連についてHERS細胞株HERS01aで、ファロイジンを用いて蛍光観察した。A群の細胞は細胞膜近くにアクチンの集積が観られ、コロニー中心部の細胞はコンパクトに密集していたのに対し、I群ではアクチンが細胞質内に広く拡散し、細い突起を多数持った細胞がコロニー辺縁に、さらにはコロニーから少し離れた所にも観察された。このことはRho signalingはアクチンの細胞内局在を制御することで、細胞遊走の調節に関わり、さらにはHERSにEMTを誘導し、断裂や断裂後の細胞遊走にも関わる可能性を示唆する。実際の細胞遊走現象をとらえるために、器官培養でK14cre×RosaTdTomatoマウスの交配により得た新生仔の歯胚を用いてライブイメージング撮影可能な器官培養系を構築した。現在このマウスから経時的に試料を採取、実験を継続中である。
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