研究課題/領域番号 |
24592788
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 朝日大学 |
研究代表者 |
滝川 俊也 朝日大学, 歯学部, 講師 (90263095)
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研究分担者 |
引頭 毅 朝日大学, 歯学部, 講師 (10360918)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 口蓋裂 / TGFβ3 / 分子標的治療薬 / DNAメチル化酵素阻害剤 / EGFR阻害剤 / ゲフィチニブ / 口蓋突起内側縁上皮細胞 / 上皮ー間葉分化転換 |
研究概要 |
研究成果1)C57BL/6J系統TGFβ3遺伝子欠損マウスのホモ胎児は完全口蓋裂のみを発症するが、DNAメチル化酵素剤RG108を妊娠母獣に投与することにより、同マウスホモ胎児が示す完全口蓋裂を口蓋突起が部分的に癒合した不完全口蓋裂へと軽症化することを見いだした。研究代表者らが開発した新規 in vitro診断システムにより、DNAメチル化酵素剤RG108の投与は部位特異的・時期特異的に胎児のMEE細胞のTGFβ3―非依存性の上皮―間葉分化転換を引き起こして口蓋突起を癒合させる作用があることが明らかとなった。これらの分子標的治療薬が口蓋裂表現型を軽症化させるメカニズムとして、潜在型TGFβを活性化させるインプリンティング遺伝子産物であるIGF2Rの口蓋組織での発現がDNAメチル化酵素剤投与により著明に増強されていること、およびin vitro実験でTGFβI型受容体(ALK5)の阻害剤を投与した場合は口蓋突起の癒合は完全に阻害されることが明らかとなった。これらの結果から、DNAメチル化酵素剤投与はTGFβ1またはTGFβ2の活性化を増強することによってTGFβ3の機能を代償している可能性が示唆された。 研究成果2)上皮成長因子受容体EGFRのチロシンキナーゼ活性を選択的に阻害するゲフィチニブ(商品名イレッサ)の投与は、DNAメチル化酵素剤RG108の投与と同様、C57BL/6J系統TGFβ3遺伝子欠損マウスホモ胎児が示す完全口蓋裂を不完全口蓋裂へと軽症化させる作用があることを見いだした。しかし、DNAメチル化酵素剤RG108とゲフィチニブとの併用投与を行っても、C57BL/6J系統TGFβ3遺伝子欠損マウスホモ胎児の口蓋裂軽症化の奏功率の向上は認められなかったため、互いに独立したメカニズムでTGFβ3―非依存性の口蓋突起の癒合を促進していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の当該研究の目標は、1)口蓋裂の軽症化をもたらす分子標的治療薬(EGFR阻害剤ゲフィチニブおよびDNAメチル化酵素阻害剤)のより効果的な投与量、投与方法等の探索、DNAメチル化酵素阻害剤との併用投与による口蓋裂軽症化奏功率の向上、および 2)in vitro解析システムを用いてゲフィチニブ投与が口蓋突起内側縁上皮(MEE)細胞の最終分化に与える影響を調査することにあった。 1)について、内服型の分子標的治療薬として開発されたゲフィチニブであるが、妊娠マウスへの経口投与は投与量、投与時期、投与回数によらず、まったくTGFβ3 KOホモ胎児の口蓋裂表現型に対する軽症化効果はみられなかった。そのため、胎児に対するゲフィチニブの有効な投与経路は妊娠マウスへの腹腔投与が最も効果的であるとの結論に至った。また、DNAメチル化酵素阻害剤の投与も同様の結果であった。両薬剤の併用投与で口蓋裂軽症化の奏功率の向上は認められなかった。以上の結果により、今後は投与方法を妊娠マウスへの腹腔内投与のみに絞って研究を進めることとした。 2)in vitro解析システムを用いてEGFR阻害剤ゲフィチニブおよびDNAメチル化酵素阻害剤が口蓋突起内側縁上皮(MEE)細胞の最終分化に与える影響を調査した結果、対照群ではまったく起こらなかったMEE細胞の上皮ー間葉分化転換が部位特異的に観察されたことから、EGFR阻害剤ゲフィチニブおよびDNAメチル化酵素阻害剤の投与はTGFβ3 KOホモ胎児のMEE細胞の上皮ー間葉分化転換を促進することが判明した。同様の結果、DNAメチル化酵素阻害剤の投与でも確認されたため、MEE細胞の上皮ー間葉分化転換能力の向上が口蓋裂表現型の軽症化と密接に関連していることが強く示唆された。 以上の結果により、平成24年度の当該研究目標は概ね達成できたものと評価する。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度の当該研究の目標は、当初の研究計画とおり、以下の2点に重点を置くこととする。 1) 分子標的治療薬投与によるEGFRシグナル伝達系とTGFβシグナル伝達系の分子活性の解析 口蓋突起の癒合が起こる時期のC57BL/6J系統Tgfb3 KOホモ胎児の口蓋突起部分からタンパクとRNAを抽出し、EGFR阻害剤ゲフィチニブおよびDNAメチル化酵素阻害剤投与群と対照群との間でphosho-EGFR, phospho-ERK-1/2, phospho-Smad2等のEGFRおよびTGFβシグナル伝達系のリン酸化分子の抗体を用いた免疫沈降とWestern blottingによる解析、さらに正常口蓋突起の癒合時に口蓋突起内側縁上皮に発現することが知られている転写因子Twist1の免疫染色により、口蓋突起癒合の成否との相関を検討する。 2) 分子標的治療薬投与により誘導されるTGFβ3遺伝子欠損マウスホモ胎児の口蓋突起癒合過程の解析 上記で摘出した胎児試料の一部を用いて組織学的解析を行う。特に分子標的治療薬の投与が誘導するTGFβ3ー非依存性の上皮―間葉分化転換について、詳細な組織学的解析を行う。具体的には phosho-EGFR, phospho-ERK-1/2, phospho-Smad2に対する抗体で免疫染色とWestern blotting法で調査して、MEE細胞のEGFRおよびTGFβシグナル伝達系の活性状態を解析し、アポトーシス、上皮―間葉分化転換などの口蓋突起内側縁上皮細胞の最終分化や口蓋突起の癒合との相関関係の有無を調べることにより、分子標的治療薬(EGFR阻害剤ゲフィチニブおよびDNAメチル化酵素阻害剤)が口蓋裂表現型の重症化を抑制するメカニズムを解明する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は当該年度の研究計画に基づいて、当該年度に交付される直接経費1,300,000円を以下の内訳で使用する予定である。 1)当該研究に使用しているTGFβ3 KOマウスの繁殖と維持に必要な野生型マウスと飼料の購入、EGFRおよびTGFβシグナル伝達系の解析のための試薬とプラスチック製消耗品一式、in vitro実験に必要なガラス製およびプラスチック製消耗品一式と培養用混合ガス、および組織学的解析に必要なガラス製消耗品一式などの購入のために消耗品費 800,000円(研究分担者への分担金 200,000円を含む)を計上する。 2)これまでの研究結果の解析と論文執筆のためのコンピュター一式と必要なアプリケーション一式を購入するため 250,000円を計上する。 3)論文投稿料(英文校正料を含む)一式 250,000円を計上する。
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