研究課題/領域番号 |
24592790
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研究機関 | 大阪歯科大学 |
研究代表者 |
真下 千穂 大阪歯科大学, 歯学部, 講師 (80368159)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 口腔バイオフィルム / イニシャルコロナイザー / アクチノマイセス / 遺伝子改変 / プラスミド |
研究実績の概要 |
本研究課題では、歯垢形成の初期段階におけるアクチノマイセス属細菌の働きを明らかにするために、2つの方向性により研究を進めてきた。①Actinomyces oris MG-1株および臨床分離株K20株を対象にランダムミュータジェネシスを行い、バイオフィルム形成能欠損した変異株を作製することで、細菌の付着、定着、および他菌種との共凝集に関する新規の遺伝子を同定する。さらに、変異株および変異蛋白の多角的な機 能解析により、口腔バイオフィルム形成過程におけるアクチノマイセス属の役割を明らかにする。②アクチノマイセス属細菌用に開発した遺伝子ツール(プラスミドなど)を作製することにより、①の研究を迅速かつ的確に推し進める。 計画1-2年目において、ランダムミュータジェネシスによりActinomyces oris MG-1株およびK20株のバイオフィルム形成変異株プールの作製を終了した(①の成果)ので、以降は②の研究を中心に進めた。その結果、アクチノマイセス属で唯一複製が可能なプラスミドpJRD215の全塩基配列を決定した。この情報を基にして、Actinomyces orisの遺伝子改変に必要である部位のみを残した(ダウンサイジング)改良型のプラスミドを作製した。改良型プラスミドを様々な口腔アクチノマイセス属に形質転換が可能であり、遺伝子改変効率の改善も行うことができた。また改良型プラスミドを基盤として、特定の遺伝子を欠失した変異株の作製にも成功した。 平成26年度では、上記の方法を組み合わせ、遺伝子発現を調節できるプラスミドの作製を試みている。Actinomyces orisでは既存の方法が適用できなかったので、遺伝子発現量を評価するためにレポーターとなる遺伝子の検索・同定、遺伝子の発現を調節できるプロモーターの検索・同定を行い、新規発現調節系の確立を行うことにした。現在は、候補遺伝子領域を絞り込めたので、Actinomyces orisに用いることができるかどうか評価を行っている段階である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目標は、以下のように2つの区分で設定した。 1.バイオフィルムを形成するActinomyces属細菌におけるバイオフィルム形成関連遺伝子の同定と機能解析:1-2年目において、バイオフィルム形成能が変化した変異株プールの作製に成功し、幾つかの候補遺伝子を同定した。個々の遺伝子解析には2.の研究の進展が必要であるので、アクチノマイセス属で有効な遺伝子改変ツールが作成された後に行う。 2.アクチノマイセス属遺伝子改変ツールの開発:アクチノマイセス属で複製が可能であるプラスミドを同定し、形質転換効率が改善した改良型プラスミドを作製した。この改良型プラスミドを用いて、特定の遺伝子を欠失した変異株の作製に成功した。次に、特定の遺伝子発現を調整できる系の作製を試みたが、アクチノマイセス属では既存の発現系で用いられている遺伝子群(プロモーターおよびレポーター遺伝子)を適用することが難しく、新規の遺伝子群の検索・同定より進める必要が生じた。 遺伝子発現系作製以外の計画については、概ね順調に研究が進み、その成果を論文投稿と学会発表により報告することができた。遺伝子発現系に関しては、アクチノマイセス属のゲノム情報の収集などで時間を要したため、年度内で計画が終了せず、次年度に予算の一部を繰り下げることにした。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度では、アクチノマイセス属に適した遺伝子改変の基盤を整備することを目標にしたきた。これまでに、クローニングベクターの作製・特定の遺伝子を欠失した変異株の作製法を確立したので、最終ステップとして遺伝子の発現制御を行うシステムの構築を進めてきた。先ずは、既存の遺伝子発現系(プロモーターおよびレポーター遺伝子)をアクチノマイセス属に応用することを試みたが、いずれの系も適していないことがわかった。そこで、Actinomyces oris MG-1株およびK20株のゲノム情報を収集し、遺伝子発現系に適した領域の検索・同定を行っている。候補遺伝子群を絞り込み、実際にアクチノマイセス属で適用できるかどうかを早急に判断し、遺伝子発現系の確立を行う予定である。最終ステップの計画が終了すると、Actinomyces orisにおける基本的な遺伝子改変技術が整うことになる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題では、アクチノマイセス属細菌で機能する遺伝子改変ツールの開発を行ってきた。しかし、対象としているアクチノマイセス属細菌では、開発したプラスミドの働きが不安定であることがわかった。そこで、Actinomyces oris MG-1株およびK20株のゲノム情報の収集、遺伝子改変が容易にできる株の分離を行っている。そのために、26年度に使用する予定であった費用が未使用となった。
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次年度使用額の使用計画 |
Actinomyces oris MG-1株およびK20株のゲノム情報の解読、新たに分離した株の遺伝学的背景を明らかにする。このため、未使用額は次年度に行う遺伝子解析費用と結果発表することに充てる。
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