研究課題/領域番号 |
24592791
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 福岡歯科大学 |
研究代表者 |
長 環 福岡歯科大学, 歯学部, 准教授 (90131870)
|
研究分担者 |
稲井 哲一朗 福岡歯科大学, 歯学部, 教授 (00264044)
永尾 潤一 福岡歯科大学, 歯学部, 助教 (30509047)
今吉 理恵子 福岡歯科大学, 歯学部, 講師 (80320331)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | Candida albicans / 抗真菌薬 / プロタミンペプチド / 細胞内透過 / 殺菌的作用 / 形態変換抑制 |
研究概要 |
病原性真菌Candida albicans (C. albicans)はヒト常在する日和見感染菌である。特に口腔では若年者での常在率が低いのに対し、中高年以降では加齢による免疫力や唾液分泌量の低下、さらに義歯装着率の増加などにより、その常在率は100%近くになる(研究代表者ら調査)。 本プロジェクトは急速な高齢化社会における高齢者の真菌症への高いリスクに対して、より安全性の高い抗真菌薬の開発を最終ゴールとしている。そのような背景の中、近年新規抗真菌薬としてペプチドの研究が活発化してきていることから、本プロジェクトにおいても食品保存料として開発されたサケプロタミン由来のペプチドが抗真菌作用を示すことに注目し、その作用機作の解明に取り組んだ。 プロタミンペプチドはアルギニンリッチな14残基塩基性ペプチド(VSRRRRRRGGRRRR)で、ヒト常在真菌C. albicansに殺菌作用を示す。プロタミンペプチドの作用機作を検討するうえで、比較ペプチトとしてこれまでによく研究されているヒト唾液由来の塩基性ペプチド:ヒスタチン5(Hst-5)および同じ塩基性ペプチドでヒト免疫不全ウイルス由来のTatペプチドを用いた。 3種類のペプチドの中で他のものよりプロタミンペプチドが優れている点として、バイオフィルムマトリクス成分β-1,3-グルカンに抗真菌活性を抑制されない点、さらにC. glabrataに対し抗真菌活性を示す点であった。また、プロタミンペプチドはエネルギー依存的に菌体内に透過し、細胞からATPを流出させることで殺菌的作用を示すことが示唆された。一方、プロタミンペプチドのC. albicansに対するサブリーザル濃度ではプロタミンペプチドが細胞表層に結合し、細胞内への透過がないこと、さらにC. albicansの酵母形から菌糸形への形態変換が抑制されることを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成24年度の当初の予定では、①抗菌スペクトラム、②プロタミンペプチドの菌体内局在および標的部位の解析であった。これらに関してはほぼ予定通りに進行し、さらにペプチドの特性に基づいた実験を行い、他のペプチドとの差別化も検討した。 ①抗菌スペクトラムについて:今回はC. albicansおよびCandida sppに対して90%以上の代謝活性を抑制する濃度を調べた。その結果、C. albicans、C. glabrata、C. tropicalisのいすれに対しても2.5μM濃度で代謝阻害活性を示した。ただし、His-5とTatペプチドは、C. glabrataに対して阻害活性を示さなかった。 ②菌体内局在、標的部位の解析について:FITCをラベルすることでプロタミンペプチドのC. albicansに対する抗真菌活性が低下しないことを確認のうえ、菌体内透過性を観察した。その結果、プロタミンペプチドは菌体内へ透過後細胞質全体に分布するが、特定のオルガネラに局在する像は観察されなかった。 プロタミンペプチドの作用にミトコンドリアが関与するかを調べるために、ミトコンドリアに作用し細胞内ATPの枯渇と細胞膜の流動性を阻害するazideを用いた。その結果、azideの作用でプロタミンペプチドは菌体内へ透過せず、菌体は殺菌されなかった。 ③塩基性ペプチドの欠点とも言えるペプチドの塩感受性と真菌細胞壁成分β-グルカンによるペプチド活性の抑制について検討した。その結果、100mM NaCl存在下でのC. albicansに対する抗真菌活性は、他のペプチドにおける高感受性に比べると若干低い感受性を示したが、プロタミンペプチドの殺菌効果は低下した。β-グルカンに対しては全く影響を受けず、プロタミンペプチドの殺菌効果は存続した。この点は、プロタミンペプチドの大きな利点となると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の方針として、①塩感受性に対する対策、②β-グルカンに捕捉されなかったことから、バイオフィルムに対する作用の詳細検討、③臨床応用を前提とした動物実験の3つの軸を中心にプロタミイペプチドの抗真菌作用を解析する。 ①塩感受性に対する対策:3通りの対策を検討する。(1)14アミン酸残基のプロタミンペプチドの活性ドメインがどの配列に存在するのかを検討するためにアミノ酸残基を減らしたペプチドを作製し、殺菌作用を検討する。(2)生体内で酵素分解から比較的安定にすると報告されているPEGを付加したペプチドを作製し、殺菌作用を検討する。(3)リニアの構造を環状化して殺菌作用を検討する。殺菌作用が認められたペプチドの塩感受性を調べる。 ②バイオフィルムに対する作用の検討:C. albincans、C. glabrata、Asperugillus fmigatus、Cryptococcus neoformansの実験的バイオフィルムを構築し、これらに対するプロタミンペプチドの殺菌効果を検討する。評価方法としてはCFUを測定する。また、FITCをラベルしたプロタミンペプチドを用い、プロタミンペプチドのバイオフィルム透過性および速度を観察する。さらにDNAマイクロアレイ法を利用して、プロタミンペプチドによる作用に関わる遺伝子を発現の増減で確認する。 ③動物実験:C. albincansのマウス口腔粘膜感染実験法が既に報告されている。この動物実験法に従い、①で検討した塩感受性の低いペプチドを用いて効果を検討する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費の使用で、主な使用計画は次の3つである。 ①今後の研究方針に基づき、単鎖、PEG付加、環状化による派生ペプチドの効果を検討するために各派生ペプチドの合成が必要となる。 ②バイオフィルムに対する効果を検討するために、3次元構造を構築するバイオフィルムを観察する。そのために顕微鏡用3次元解析ソフトが必要になる。 ③ペプチドの作用により発現する遺伝子群を調べるために、DNAアレイ解析を行うので、その解析費用が必要である。
|