研究課題
その1. TNSALP(P108L)(組織非特異型アルカリフォスファターゼP108L)の解析:P109L(標準命名法による。非標準命名法ではP91L)は歯限局性の低フォスファターゼ症患者で報告された変異で、優性遺伝する。そこで、このアミノ酸の置換がアルカリフォスファターゼ分子に与える影響を検討する目的で、COS-1細胞における一過性の発現系を用いて変異酵素と野生型酵素の比較検討を行った。これまでの細胞生物学的な実験により、本変異酵素は細胞表面に輸送されるが酵素活性を失ったジスルフィド結合を介した高分子凝集物となっていることが明らかになり、さらに詳しい検討を加えている。その2. 変異酵素 TNSALP(D306V)の分解機構:D306Vは非標準命名法ではD289Vと呼ばれていた変異で、アルカリフォスファターゼ分子のカルシム結合部位のアスパラギン酸がバリンに置換したためにカルシウム結合能が失われた特徴的な変異で、当研究室での解析により小胞体に滞留してその後小胞体分解機構により分解されることが明らかになっている。その認識にEDEM(ER-degradation-enhancing mannosidase-like protein)が関与することを種々の糖鎖合成の阻害剤を用いて明らかにし、またユビキチン化後に分解されることも見出している。さらに詳細な検討を実行するために従来の一過性の発現系に加えてヒト細胞由来の安定発現系の樹立に努めている。その3. TNSALPは5本のアスパラギン酸結合型糖鎖が結合しているのに対し、胎盤型アルカリフォスファターゼ分子には2本しか結合していないことが知られている。糖鎖の酵素分子の活性や安定性への影響を検討するために部位特異的突然法を用いて糖鎖の付加を抑制してそれぞれの糖鎖の働きを調べている。
2: おおむね順調に進展している
その1:COS-1細胞を用いた過剰発現系での実験をほぼ終えた。これまでの結果から、以前に解析した同じく活性中心(110番目のセリン)の近傍の変異である、TNSALP(A116T)によく似た性質を示すことがわかってきた。両者とも優性遺伝することから優性遺伝の分子機構の一端を明らかにすることが可能であると考えている。その2:HepG2細胞にTNSALP(D306V)を一過性に発現させた細胞のマイクロDNA解析を行った。その結果、upregulationを受けるタンパク質としてFボックスタンパク質の1つであるFbxLに属するタンパク質が見つかり、本タンパク質がSCF型のユビキチンリガーゼの構成タンパク質として働く可能性を見出した。その3. TNSALPの5本の糖鎖のうち特定の1つの糖鎖の付加を阻害すると活性が失われる結果を得て、さらに詳しい解析を行っている。
その1:詳細な解析を行うためにTNSALP(P108L)を発現するTet-On CHO細胞を樹立しする。さらに、GPI(グリコシルホスファテチジルイノシトール)アンカー部位を欠損させた分泌型の酵素として培地から精製して解析をする。その2:TNSALP(D306V)の分解に対するFbxLの関与を確認するために、当該タンパク質の過剰発現、逆にknock down実験による分解速度への影響と検討する。また、分解過程のより詳細な解析を実施するためにヒト細胞由来のTet-ON HepG2の樹立を試みる。その3:糖鎖の欠損の影響をより詳細に検討するために胎盤型のアルカリフォスファターゼ分子との比較を行う。
平成25年の1月と8月に歯学部の大型改修にともなう一時避難場所への移動と、さらに改修後の実験室への2回の移転作業のために実験を中断せざるを得なくなった時期があり、それに伴って使用額が減ったため。新しい研究室の整備(遺伝子組換え実験室の申請承認を含む)が完了したため、おおむね当初の予定通りに実験を実施し、経費を使用することが可能となると思われる。
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