研究課題/領域番号 |
24592794
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
織田 公光 新潟大学, 医歯学系, 教授 (10122681)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 低フォスファターゼ症 / 先天性遺伝疾患 / アルカリフォスファターゼ / 発症メカニズム / 石灰化 |
研究実績の概要 |
1.低フォスファターゼ症のミスセンス突然変異[TNSALP(G426C)]の解析。 低フォスファターゼ症は組織非特異型アルカリフォスファターゼ(tissue-nonspecific alkaline phosphatase, TNSALP)をコードするALPL遺伝子上の突然変異に起因することが知られている。本年度の研究では、重症の低フォスファターゼ症(乳児型)で報告された426番目のグリシンがシステインに置換したミスセンス変異(ホモ型)の解析を完了した。この突然変異による発症メカニズムを解析するために、野生型酵素並びに変異酵素をほ乳動物細胞に発現して両酵素の詳しい比較検討を行った。その結果、変異酵素を発現した細胞には野生型酵素(2量体で分子サイズ約140 KDa)よりも大きな見かけ上3量体に相当する分子種(約200 KDa)が検出され、その原因が本来架橋されていないサブユニット間が変異酵素ではジスルフィド結合により架橋されていることが分かった。一方、変異酵素は野生型酵素と同じく細胞表面に運ばれるが、全く活性を失っていることも判明した。以上のことから、変異酵素TNSALP (G426C)は細胞表面に発現するが、異常なジスルフィド結合を形成して活性を失っており(loss of function)、このことが本突然変異による重症低フォスファターゼ症の発症の原因であると結論づけられた。
2.TNSALP分子のN-結合糖鎖の役割の解析。 5種類のN型糖鎖の欠失体の中でN413Q欠失体のみは活性がないことが分かっていたが、N413Dなどの解析から、N413の糖鎖の欠失と活性は無関係であり、N (アスパラギン)からQ(グルタミン)への置換が酵素の活性を阻害することを見いだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.重症の低フォスファターゼ症患者で報告されたミスセンス変異[TNSALP(G426S)]の解析を終了したので投稿の準備をしている。
2.歯限局性の低フォスファターゼ症の患者で報告されたミスセンス変異[TNSALP (P108L)]の解析が完了し論文を投稿中である。
3.TNSALPの5本のN型糖鎖のそれぞれを単独で欠いた酵素(欠失体)の解析から、N型糖鎖は単独では酵素の構造や活性に影響しないことが分かった。一方、TNSALP の5本の糖鎖を全て欠失した酵素では細胞内で顕著に発現量が低下することを見いだしており、糖鎖がタンパク質の生合成や安定性に関与していることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
1.複数の糖鎖を失った欠失体をコードするプラスミドを構築し、哺乳類細胞に発現して糖鎖の酵素の構造と活性への影響をシステマティックに検討する。
2.重症の低フォスファターゼ症で報告されたTNSALP (D306V)は小胞体で蓄積後に分解されることを報告した。DNAマイクロアレイの解析からこの分解にFbxL13を成分とするユビキチンリガーゼ(SCF)が関与するデータを得ているが、PCRを用いた実験ではその再現性が得られず、今後さらなる検討が必要と思われる。
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次年度使用額が生じた理由 |
変異酵素の詳細な解析のためにはその酵素の発現をコントロールできる安定発現系(Tet-On CHO 細胞)の樹立が必須だが、一部の酵素 [TNSALP(G426S)] でその細胞株を得るのに時間がかかり、本実験まで進まずに解析に用いる予定の経費が余った。
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次年度使用額の使用計画 |
1.細胞が樹立できたので今年度に解析を行う際に用いる。 2.複数の糖鎖を失ったTNSALPの欠失体の構築と塩基配列の決定に経費がかかる。
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