研究課題
食物を噛みしめる時には閉口筋の長さが殆ど変化しない等尺性収縮が生じているが、それを制御する神経機構は未だ明らかではない。等尺性筋収縮は、運動ニューロンとその支配筋からなる運動単位が収縮力の小さいもの或いは運動ニューロンの軸索径の小さいものから順に序列動員されることにより実現されるが、これはニューロンの細胞径と静止膜電位及び入力抵抗に負の相関があるためである。ニューロンにおける静止膜電位及び入力抵抗の決定にはTASK1及びTASK3チャネルが支配的な影響を有しているが、ラット脳におけるin situハイブリダイゼーション分析(Karschin et al., 2001)の結果から、三叉神経運動核には特に高密度にTASK1及びTASK3が発現していることが明らかとなっている。そこで、市販の抗TASK3抗体及び新規開発した抗TASK1抗体を用い、三叉神経運動ニューロンの免疫染色を行ったところ、細胞体が小径で樹状突起に乏しい運動ニューロンでは、細胞体部にTASK1を豊富に発現しているもののTASK3の発現は僅かであった。対して、細胞体が大きく樹状突起が発達した運動ニューロンでは、細胞体部にTASK1、樹状突起部にTASK3をそれぞれ相補的かつ豊富に発現していた。我々の先行研究(Toyoda et al., 2010)から、8-Br-cGMPによるcGMP依存性蛋白キナーゼ(PKG)の活性化によりTASK1が上方制御されることが判っていることから、三叉神経運動ニューロンに8-Br-cGMPを灌流投与しその影響を観察した。すると、小径のニューロンでは予想通り入力抵抗の低下と膜の過分極が認められた。一方、大型のニューロンでは変化方向が一貫していないものの、入力抵抗の増大傾向と膜の脱分極傾向が認められた。また、記録細胞の周囲を電気刺激して誘発されたEPSPの振幅は増大した。これらの所見から、TASK3は8-Br-cGMPによって下方制御される可能性が浮上した。
2: おおむね順調に進展している
シナプス後(三叉神経運動ニューロン)の解析は当初予定より進んでいる。一方シナプス前(三叉神経中脳路核ニューロン軸索中枢枝等)については、やや遅れている。子宮内穿孔法を用いて、大脳皮質第2/3層錐体細胞にチャネルロドプシン-2(ChR2)を発現させ、青色光刺激により興奮を誘発することはできたが、三叉神経運動核への入力線維にChR2を発現することには成功しなかった。北米神経科学会に参加し調査した結果、ChR2発現マウスを理研より導入することが妥当であるとの結論に達した。しかし、その手続きを完了するのに数か月を要し、実際の実験に着手するのが遅れた。現時点ではマウスの導入が完了し、記録実験を開始している。
等尺性収縮時に見られるα運動ニューロンの序列動員の明確な神経機構は依然未解決である。極めて厳密な等尺性収縮を行うことが出来る咀嚼運動系は、この問題を解明するのに最も適した神経回路である。光刺激によって、入力系を選択的に活性化することが可能になれば、運動ニューロン動員の空間的拡がりを光学的に直接測定し、序列動員の時空間パターンを明確に記録できると期待される。また、サイズの原理の根幹をなす入力抵抗を決定する漏洩K(+)チャネルについての分子生物学的知見が近年急峻に蓄積されてきた現状で、運動ニューロン序列動員の神経機構を漏洩K(+)チャネルの働きの観点から明らかにする研究の学術的意義は極めて高く、その研究成果は、サイズの原理に従わない一部の運動系の一見矛盾する所見を統一的に解釈することを可能にし得る。また、PKGの活性化が漏洩K(+)チャネルを構成するTASK1及びTASK3に対しそれぞれ上方制御及び下方制御することが明らかとなれば、三叉神経運動ニューロンの細胞径依存的なTASK1/TASK3チャネルの相補的細胞下分布の機能的意義を明らかに出来ることも期待される。
実験プロトコルの効率化により、当初予定よりも試薬使用量が抑制され、その分予定していた試薬の購入費に余剰が生じた。更新が望ましい状況になっている古い実験器具類の購入費用に充てる予定である。
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Experimental Brain Research
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