今までの研究では、PIRPが細胞内クロライドイオン濃度を制御するKCC2タンパク質の機能を抑制することにより、疼痛を誘導することが明らかとなった。このPRIPを介した反応は、KCC2のリン酸化状態を制御することにより発現することを解明した。 さらに、前年度の解析により、細胞内亜鉛濃度を制御するZNT1の発現減少がKCC2の発現を抑制することを明らかにした。このZNT1発現抑制に伴う、KCC2の発現抑制は、細胞内亜鉛濃度の上昇に伴う転写制御因子の変動を介したカスケード反応であり、最終的にはBDNFの発現上昇によるKCC2発現抑制であった。 本年度は、KCC2発現抑制による細胞内変化について、急性切片を用いて詳細に検討を加えた。その結果、ZNT1発現抑制モデル動物における脊髄では、KCC2の機能が明らかに減弱しており、この結果細胞内クライドイオン濃度が上昇していることが明らかとなった。 さらに、難治性疼痛の直接の発症原因がKCC2機能抑制である点が共通することから、PRIPとZNT1との関連性について検討をおこなった。PRIPがKCC2のリン酸化状態を制御し、ZNT1が転写制御因子活性を介した反応であるため、直接的な関連性は認められないと考え、カスケード反応段階におけるクロストークの可能性を検討したが、明確な相互作用の可能性を見出すことができなかった。しかしながら、細胞内亜鉛濃度の変動が神経障害性疼痛の発症に深く関与しており、この亜鉛濃度の制御にZNT1発現量変動が重要な点を明らかとした。
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