研究実績の概要 |
近年の食生活の変化により摂取する栄養バランスの崩れから生活習慣病や味覚異常が引き起こされていると言われる。しかし、味覚研究において食生活による味覚異常や味覚異常に伴う生活習慣病発症を裏付けるデータはほとんど報告されていない。そこで本研究課題では、継続的な甘味溶液摂取による味覚感受性の変化の詳細と、その現象の分子基盤を解明することを目的としている。 感受性変化を起こす摂取期間については、本研究で用いた期間(3日、7日、14日)の中で7日間、14日間で有意な変化が認められた。2mM saccharin摂取マウス群では、SC45647, glycine, sucrose, glucoseに対する応答とグルタミン酸にイノシン酸を0.5mM添加した溶液に対する応答が有意に減少した(Repeated two-way ANOVA: P < 0.05)。さらに2mM saccharinの代わりに、人工甘味料である0.3mM SC45647を7日間摂取した条件においても、同様の結果を得た。単一神経記録実験では全神経線維束応答の結果と対応して、sucroseに対するインパルス頻度が有意に変化し、濃度応答曲線における最大応答値が変化する可能性が示唆された。 さらに栄養状態による影響を見るため、12週齢の食事誘導肥満(DIO)マウスを用いて、2mM saccharin継続摂取させたところ、体重が30g代のマウスでは水摂取マウスに比べて甘味応答が上昇することが分かった。マウスの舌味細胞の定量的PCRの結果、甘味応答の大きさと関連してT1R3の発現量が栄養状態と甘味摂取条件により変化する可能性が示唆された。以上の結果より、甘味を継続摂取することにより甘味感受性が変化し、その変化は動物の栄養状態や継続期間によって影響を受けることが示された。
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